No title

カップルで賑わう人ごみを抜け、木枯らしの吹きすさぶ道を手を繋いで歩いてゆくと小さな公園に出くわした。
小さな街灯がぽつんと立っている園内には人はおらずひっそりとしている。
その一角にあるベンチに腰を下ろし、白い息を吐き出した。
ふと空を見上げればどんよりとした分厚い雲が空一面を覆っている。
夏、あんなに沢山生い茂っていた葉は一枚残らず落ちていて、剥き出しになった木々が風に煽られカサカサと乾いた音を立てた。
それがより一層体感温度を低く感じさせているようで、思わず身震いしてしまう。
「寒いっすね」
「そりゃそうだろ。冬だし」
身も蓋もない言い方をされたら返す言葉もない。しばらく黙って二人してどんよりとした空を見上げていると、不意に宮地さんがベンチに凭れていた体を起こした。
「こりゃ一雨くるか?」
「雨? どうせなら雪の方がいいのに……。ムードねーっすね。つか、天気も空気読めっての」
「んな都合よく空気なんて読めるわけねーだろバーカ」
笑いながらコツンと額にデコピンされて、視界が軽く揺れた。
「ってー……。だって、折角のイブなんっすよ? どうせならホワイトクリスマスの方がいいじゃん」
「雪なんて寒いだけだろ。野郎二人で雪見てどうすんだよ」
「それもそーっすね。あ、そうだ宮地サン。……一つ、聞いてもいいっすか?」
「なんだよ?」
「なんで今日……俺を誘ってくれたんっすか?」
ずっと考えてた。宮地さんはどういうつもりで“今日空けとけ”って言ったのか。
宮地さんならカッコイイから、クリスマスを一緒に過ごしたいって言う女子は沢山いたはずだ。
「あ〜……推しメンのクリスマスイベントに外れたから、自暴自棄になってって感じ?」
「ハハッ、そーっすか」
薄々そんなことだろうとは思ってた。
つか、ヤケ起こして俺誘うとか、期待して損したっつーか。
「……って、んなわけねーだろ。バーカ」
ひやりと冷たい手が伸びてきて、思わずうつむいてしまいそうになっていた俺の鼻をギュッと強く摘まれる。
「いてててっ、痛いって、宮地サン」
目尻に涙が滲むほど強く摘まれて恐らく赤くなってしまったであろう鼻の頭を抑えていると宮地さんが髪をかきあげながらぼそりと呟いた。
「好きな奴とイブを過ごしたいって思うのはフツウだろうが」
「えっ?」
その声はあまりにも小さくて聞き取りにくかったけれど、今確かに“好きな奴”って言った?
ぼんやりとした頭の中で、言われた言葉を反芻する。
それって、それって……俺のこと……。
「ぅええええっ!? マジっすか、宮地さ……「うっせバカ! 大きな声出すな埋めんぞ!!」
耳まで真っ赤に染めた宮地さんに勢いよく口を手で塞がれ、その拍子にベンチに強く押し付けられた。
「って〜〜。フハッ、宮地さん顔真っ赤」
「あーうぜー。マジうぜーっ! そう言うお前だって同じだろうが!」
言われなくても、どうしようもなく自分の顔が赤くなっている事は鏡を見なくてもわかる。
「宮地さんがいきなりあんなこと言うからっすよ」
「……お前はどうなんだよ」
「俺? 俺は……」
宮地さんが求めている。俺の言葉を。
そんなの、決まってんじゃん。
「……流石に好きじゃなきゃ、イブにデートなんてOKしないっすよ」
結局いつもとあんま変わらなかったけれど。
「そうか……」
俺の言葉を聞いた途端、宮地さんが何処かホッとしたように表情を崩した。
「ふは、俺達両想いだったんっすねー」
照れたようにそう言うと同時にぐいと腕を引かれ、きつく抱きしめられた。
「俺、お前はてっきり緑間が好きだとばかり思ってた……」
「向こうがどう思ってるかは知らないっすけど、俺にとって真ちゃんは相棒っすから」
「……そうか」
ホッとしたのか宮地さんが俺を抱きしめながら安堵の吐息を洩らす。
そろそろと広い背中を抱き返すと、ますます強い力で抱きしめてくれるのがなんだか嬉しい。
そっと顔を上げると、どちらかともなく視線が絡んだ。目を閉じるのも待ってもらえず唇が重なる。
「ん……っ」
ベンチに押し付けられるようにして、深く口づけられ、その情熱的な口づけに、体温が急激に上がった。ほんの少し割開いた唇の隙間から熱い下が滑り込んできて、俺の舌と絡む。頬の内側や、歯列をなぞられ、腰がぞくりと疼いた。
知らなかった。キスがこんなに気持ちいいものだったなんて。
「ン、ンン……は、宮地さ……」
「……」
ホワホワとキスに夢中になっていると、不意に頬に冷たいものが伝った。
どんよりとした空を見上げてみれば、いつの間にか粉雪が舞い始め俺たちの頬や肩を濡らしては消えてゆく。
「雪……天気も、ちゃんと空気読んでくれたみたいっすね」
「……だな」
ベンチに凭れていた体を起こすと、抱きしめていた腕がそっと解かれ互の体が離れる。
不意に背を向けると、宮地さんはそのまま歩き出す。
「ちょっ、どこ行くんっすか」
「このままずっとココにいる気かよ。風邪ひくだろうが」
帰るぞ。と、ポケットに手を入れて歩き出した宮地さんの後を慌てて追いかける。
もしかして、今夜はこれで終わり?
不安に駆られて見上げると、宮地さんがポツリと言った。
「今夜さ……。ウチ、みんな出かけて帰って来ないんだよ……」
「行っても、いいんっすか?」
「嫌なら来なくてもいいんだぜ?」
なんて、意地悪な事を言う。
俺の答えなんて、わかってるくせに。
「どうする?」
にやりと悪戯っぽく笑を浮かべる宮地さんの手を、返事の代わりに強く握った。




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