No title

「高尾。今度の火曜日の事だが……」
一限目の授業を終え、凝り固まった体を伸ばしていると、日直の仕事を終えた真ちゃんが席に戻ってくるなり突然そう切り出してきた。
今度の火曜っていや、クリスマスイブ。だよな?
「あー、真ちゃん悪いけど、クリスマスのお誘いなら別の日にしてくんね? その日先約があるんだわ」
「何!?」
まさか断られると思っていなかったのか、真ちゃんは心底驚いたようにカッと目を見開いた。
「ふはっ、何その反応。つか、真ちゃんは知らねーかもしんねぇけど俺、結構モテるんだぜ?」
「……相手は宮地先輩か?」
ズバリ的を得た名前が真ちゃんの口から飛び出して、一瞬ぎくりと体が強張ってしまった。
「さぁ? どーだろーなー?」
誤魔化すようにわざとふざけた調子で言ったら、それを肯定と取ったのか、苦虫でも噛み潰したかのような表情で俺を睨みつけてくる。
「えー、なになに? もしかして真ちゃん、クリスマスは俺と過ごしたかったとか?」
「バカを言うな。なぜ俺がお前なんかと……。別にそういう訳ではないのだよ!」
不貞腐れたように、ツンとそっぽを向いてさっさと席に着く。
その反応が可笑しくてつい口元が笑の形に歪んでしまう。
笑ったらダメだとわかっているけれど、真ちゃんの態度が分かりやすすぎて笑いが込み上げてくる。
「じゃぁどう言う意味なんだよ?」
ちょっと意地悪してみたくなって聞いてみたら、真ちゃんは言葉に詰まり、モゴモゴと口篭ってしまった。
「それは……っ」と言ったっきり言葉の続きを探して視線を彷徨わせる真ちゃん。
気持ちはスゲー嬉しいんだけど……。
「ぶはっ、いやーモテる男は辛いわ。けど、悪いな真ちゃん。気持ちはマジで嬉しいんだけどさ、その日はだいぶ前から約束してたんだよ」
「……」
真ちゃんは何も言わなかった。けど、纏うオーラは不機嫌そのもので、鋭い視線を俺に向けてくる。
「そう怒るなよ」
「別に怒ってなどいないのだよ」
「……怒ってんじゃん。眉吊り上げてすっげー怖い顔してるぜ?」
一気に淀みだした暗い空気をどうしたらいいものかと考えていると、廊下の端に目立つハチミツ色の髪が見えた。
これ以上真ちゃんが不機嫌になったら堪らない。重苦しい空気から逃げるように俺は先回りして廊下に出た。


[prev next]

[bkm] [表紙]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -