No title
それから二週間、オレ達は部活の合間を縫っては芝居の稽古を行うという超ハードな二足の草鞋状態に突入していた。
心配していた衣装は全て洋裁部の奴らが仕立ててくれるという事になり、後はオレと日向の衣装を残すのみ。
少しずつ出来上がってゆくハイクオリティな衣装を前にみんなもテンションが上がり、中途半端な真似は出来ない! と、自然と芝居の練習にも力が入り始めた。
そして今、本番さながらの薄暗いステージの上に設置された簡易式のベッドの上にオレは手を組んだまま横たわっている。
その横で、日向がなんだか長たらしくて聞いているこっちが恥ずかしくなるようなセリフを、ツラツラと淀みなく身振り手振りを交えて語っているところだ。
すごいよ日向。それ、全部覚えたのか? なんだかんだでノリノリじゃないか。
なんて事を考えていると、パァっとスポットライトがオレに標準を合わせた。まばゆい光に照らされて思わず顔をしかめたオレの頭上にふっと影が差す。
「――ああ、愛しい白雪姫よ私の口づけで目を覚ましたまえ……」
キタっ!
ゆっくりと近づいてくる日向の顔。いつになく真剣な表情が直視出来なくて、堪らずオレは目を瞑った。
落ち着けオレ! 落ち着け……。
ドキドキしすぎて身体がグラグラ揺れてるように感じる。大丈夫だ、これはフリ。本当にキスするわけじゃないんだ。
大丈夫、大丈夫……――――?
中々終わらない目覚めのシーンに痺れを切らしそっと目を開けると、目前に唇が迫っていて。あと数センチで鼻と鼻がつく! と言う段になって心臓が口から飛び出してしまいそうになった。
「〜〜〜っ!!」
やっぱ無理だっ! そう思った瞬間、オレは両手で日向の顎を突っぱねてしまっていた。
途端グキッと言う鈍い音が体育館に響き渡る。
「ご、ごめん日向」
「いいよ。気にすんな……って、言いたいところだが? てめぇっ伊月! 何度おんなじ事やったら気が済むんだ! 俺の首が鞭打ちになったらどうしてくれる!」
「ひゃっははは! 伊月先輩何やってるんっすか」
額に怒りマークを拵えた日向が食ってかかるのと、魔女の格好をした火神がゲラゲラ笑い出すのはほぼ同時だった。
「ふざけてないできちんとしてくれないと困ります」
赤い小人用の衣装に身を包んだ黒子にまで注意されると、なんだか悲しくなってくる。
普段怒らない黒子にまで怒られてしまった。別にふざけたつもりはこれっぽっちも無いんだけどな。
オレだって、ここまで来たら芝居を成功させたいって思っているんだ。
だけど、日向とき、キスなんて……っ!
「本当にすまないと思っている。本番ではきちんとするから……」
「そんなに嫌なら、俺が代わってやろうか?」
「え?」
ぽんと肩に手を置かれ、反射的に俯きかけていた顔を上げた。
視界いっぱいに飛び込んで来たのは、やたらリアルな顔をした馬の着ぐるみ!
「うわっ!? びっくりした……って、なんだ木吉か」
「日向とキスするのが嫌なんだろう? だから、俺でいいなら代わってやるよ」
喜んで! と、言いながら馬面を近づけられて思わず身体を仰け反らせた。
その顔で迫られると本気で怖いっ!