No title

「何をそんなにイライラしてんだよ。生理でも来たのか?」
「あー、そーかも知んねーっすわ。だから、俺なんてほっといて先に行っといてくださいよ」
「たく、取り付くシマもねーな」
嫌味で言ったつもりの言葉に、宮地さんはヤレヤレと肩を竦めた。
「つか、なんで今日に限ってそんなに優しいんっすか? 俺のことなんてほっといて先に行けばいいじゃないっすか」
「恋人の誕生日位優しくしてやりたいと思って何が悪いんだよ」
「誕……生日?」
若干苛立ちの滲み始めた宮地さんの口から思ってもみなかった言葉が飛び出して、俺は思わず壁にかかっているカレンダーに目をやった。
よくよく見てみれば確かに今日は俺の誕生日だ。
「すっかり忘れてた、って顔してんな」
「え、いや……もう誕生日とか祝われて喜ぶ年齢じゃねーし」
「よく言うぜ。ついこないだまでしつこい位皆にアピールしまくってたじゃねぇか」
「あれは冗談で……と、言う事はあの箱はもしかして俺に……?」
ついうっかり口が滑ってしまった。
しまった、と思ったけれど既に遅い。
宮地さんが目を大きく見開いたあと、短く息を吐く。
「てめっ、何勝手に人のカバン覗いてんだよ……。つーか、お前が機嫌悪い原因はコレか?」
スっと鞄から現れた箱。
勘違いをしていた恥ずかしさも手伝って思わず宮地さんに背を向けソレから視線を逸らしてしまう。
「や、だって……まかさ宮地さんがプレゼント用意してくれてるなんて思ってなかったし。だから俺、てっきり……」
「てっきり……なんだよ?」
するっと後ろから抱き締められて腰に腕がまわる。
耳元でそう尋ねられ言葉に詰まった。
「てっきり……誰か女性にやるのかなって思って」
そう言うと、背後にわざとらしい盛大な溜息が響く。
「俺の事疑ってたのか」
「ちがっ」
低く冷たい声が響く。
「違わねーだろ? 俺が女に貢物なんて……くだらねぇこと考えんな馬鹿。轢くぞ!」
「すんません。……ところで、その箱には何が入ってるんっすか?」
俺がそう尋ねると、宮地さんは一瞬何かを考えるような素振りをしたあと「気になるのか?」と尋ねてきた。
あの形から想像できるもんつったら時計とか? 気にならないと言ったらそれは嘘だ。
「見せてくれるんすか?」
「取り敢えず、部活終わってから、な」
「ちぇっ。今、見せてくれてもいーじゃん」
「こういうのは時間に余裕があるときに渡すもんなんだよ。ムードっつーもんがあんだろうが」
「ふはっ、なんっすか、それ」
喉で小さく笑い視線が絡む。
密着している部分から宮地さんの温もりが伝わってきて少しずつ鼓動が早くなっていく。
「高尾……こっち向けよ」
宮地さんの声色が変化した。甘い空気を感じて思わず身構えた俺の名をもう一度呼び、顎に宮地さんのひんやりとした指先がかかる。
「ぁ……」
キスされる。
促されるまま顎をあげ、近づいてくる宮地さんの気配に吸い込まれるようにゆっくりと目を閉じ――。

「――今日のラッキーアイテムを持ち帰るのを忘れていたのだよ」
「!!!」
いきなりドアがガラリと大きな音を立てて開き、ムードをぶち壊す呑気な声が響く。
「し、真ちゃん……」
咄嗟に俺は宮地さんを突き飛ばし距離ができる。
「む? なんだまだ居たのか高尾。何やってる? 顔が赤いようだが」
「べ、別になんでもねーよ」
「?」
不思議そうにじっと俺の顔を覗き込む真ちゃんの視線が居た堪れない。
「……緑間てめ……っ」
「宮地さん。いたんですか。なんでこんなところに?」
低くドスの利いた声で睨み付ける宮地さんにも動じないあたり、流石真ちゃんだと思う。
「お前、轢く! いや、殺ス」
「は? なんなのだよ一体。おい、高尾。宮地さんは何を怒っているのだよ」
怒りを露にする宮地さんに戸惑う真ちゃん。
「んー、取り敢えず真ちゃんが悪いわ」
「意味がわからないのだよ!!」
悪気が無いだけたちが悪い。
青筋を浮かべて真ちゃんにヘッドロックをかませている宮地さんを眺めながら、俺はひっそりと溜息を吐いた。



[prev next]

[bkm] [表紙]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -