No title

「うーっす!」
「!!」
突然静かだった部室に野太い声が響き、俺は咄嗟にその箱を元あった場所に戻した。
「あれ?高尾居たのか。お前何やってんだよ」
「お、おはようございます木村サン。い、いや俺も今来た所で、着替えようかと思って」
「ふぅん。緑間は? 一緒じゃねぇの?」
「真ちゃんなら、おは朝の結果が悪かったってんで今日は部活休むって」
「はっはー、相変わらずだなあいつ。マジでムカつく」
心臓が口から飛び出してしまいそうになるんじゃないかと思うほどバクバクと早鐘を打つ。
どうやら宮地さんのロッカーを勝手に開けていた事は気づかれていないようだ。
「ハハッ。あ、木村さん、宮地さんって……」
最近、彼女が出来たとか聞いてます?
喉元まででかかっていた言葉を、俺は慌てて飲み込んだ。
仲がいい木村さんならきっと知っているかもしれない。
聞いてみたい。だけど、聞いちゃだめだ。
あれがもし本当に誰かへの贈り物だったとしたら……。俺の立場がなくなってしまう。
「宮地がどうかしたのか?」
「あ……やっぱなんもねーっす。宮地さん、毎朝早いっすよね。すげーなーと思って……」
一度生まれた猜疑心は消えることなく胸にしこりを残し、嫌な気分がどんどん膨らんでゆく。
やっぱ、見るんじゃなかったかも。


「高尾、俺はもう帰るのだよ。先輩たちには……」
「部活休むって、言っときゃいいんだろ? わーってるって」
HRが終わると、真ちゃんがそそくさと立ち上がってカバンを肩に掛ける。普段は超ストイックなくせにおは朝の言うことには素直に従うコイツは今日、部活を休む気満々らしい。
「じゃぁな。オレは行く」
「へいへーい」
多少の罪悪感はあるのか大きな体をほんの少し屈めて出て行く真ちゃんと、賑やかに談笑しながら教室を出て行くクラスメートたちを何気なく眺める。
俺もそろそろ、と思ったけれどどうしても席を立つ気にはなれなかった。
部活に行けば宮地さんと会ってしまう。今は出来たら会いたくない。
一人っきりになった瞬間、俺は思わず深い溜息を吐いた。
あんな小さなプレゼント一つで何を動揺しているんだろう俺。
もしかしたらさ、親にあげるヤツかもしれないし。いや、つかそれならわざわざ学校には持って来ないよな……。
薄暗くなった室内で幾度となく溜息を洩らす。
俺も真ちゃんとサボればよかったか?
「――まだこんなところにいたのかよ」
「!?」
不意に聞き慣れた声がして、反射的に顔を上げた。
振り返らなくても誰だかわかる。
「宮地さん、なんで……?」
そこにいたのは今、一番会いたくなかった人物。
いつも迎えになんて来ないのになんで今日に限って?
「わざわざ迎えに来てくれたんっすか? 俺って愛されてたんっすね」
もやもやする気持ちを悟られぬよう出来るだけ感情を押し殺し、へらりと笑って見せると宮地さんがゆっくりと近づいて来た。。
「ハッ、バーカ。緑間がサボるのがうちの教室から見えたからな。お前までサボるつもりじゃねぇかと思って見に来てやっただけだ」
「さ、サボるわけないっしょ」
「どーだか。今朝なんか調子悪そうだったし」
「……っ」
図星をさされてぎくりと体が強ばった。確かに今朝の練習では明らかに集中力を欠いていた。
どうしてもプレゼントのことが頭から離れなくて、気になってしまったんだから仕方がない。
肩に掛けているそのバックの中にまだ入っているのだろうか? それとももう渡したとか?
一体誰に? 
つい、視線がそちらに行ってしまい余計に嫌な気持ちが広がってゆく。
「ほら、行くぞ。いつまでもぼーっとしてんなよ」
「俺、準備まだなんで、先に行ってていいっすよ」
視線を合わせず答えると、何かおかしいと思ったのか宮地さんの眉間に小さなシワが寄った。
「準備くらいすぐ終わるだろ?」
「いいって言ってるじゃないっすか!」
つい、きつい口調になってしまい、しまった! と思った。
「……何を怒ってるんだ?」
「別に。怒ってないっす」
「怒ってるじゃねーか。思いっきり不機嫌そうなツラしてんぞ」
「っ!」
わけがわからない。と、言った風に宮地さんが俺の顔を覗き込んでくる。
なんで今日に限って、優しくするんだよ。
いつもみたいに、「ハッ! 先輩にんな口聞くとはいい度胸だな。轢くぞ!」くらい言ってくれたら気が楽なのに。
不快だった。
目の前で大事そうに抱えているカバンの中に例のプレゼントらしきものが入っているのが。
そのプレゼントを俺の知らない誰かに渡すんだろうと思うと、腸が煮えくり返りそうになる。
俺、こんなに心が狭かったなんて知らなかった。そんな自分自身にもイライラしてしまう。


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