No title

日向の合図で同時に食べ出し、ゆっくりと互いの端が短くなるに連れて、どんどん近づいてくる日向の顔! そのたびに俺の鼓動が速くなっていく。
「……っ」
どうしよう……日向にどきどきしてるのバレていないだろうか?
息がかかりそうな程近くに日向の存在を感じ、俺は動けなくなってしまった。味を楽しむとか、そんな余裕なんて何処にもない。
今にも口から心臓が飛び出して来てしまいそう。
目の前に日向の瞳があって、緊張で息が詰まる。真っ直ぐに見つめられると絡まる視線だけで溶けてしまいそうだ。
「……っ」
あと数センチと言う距離まで来たところで熱い視線に耐えかねて、俺は思わずぎゅっと目を瞑ってしまった。
その途端、ちゅっと軽い水音が響き唇に温かな感触。
「あ……」
直ぐに離れてしまった唇を追うように顎を上げた。けれど、降って来たのはくすっと言う笑い声。
「?」
そっと目を開けると、くしゃりと頭を撫でられた。
「お前の負け、な」
我慢出来ないと言うようにククッっとのどの奥で日向が笑う。
「伊月、今なにを期待していたんだ?」
「……っ、俺は別に……っ」
言葉の続きを探して視線をさまよわせる俺の頭をくしゃくしゃと掻き混ぜ、指先が擽るように頬を撫でた。日向の指先が触れた部分が熱を持ったようにカッと火照り出す。
「どうして欲しい?」
耳元でそっと響く声色は甘くて酷く官能的に鼓膜を震わせる。
「日向って、時々意地悪だよな……」
俺が求めていることなんて、わかりきってるくせに。
「そうか? おれ鈍いからな。言葉にしてくれなきゃわからねぇ」
言いながら、そっと唇に指が触れる。
悔しいけれど、俺はその指先に逆らうことなんて出来ない。
「ほら、言えよ伊月……どうして欲しい?」
「キス、して……くれよ」
「キスだけでいいのか?」
クス、と笑いながらゆっくりと顔が近づいてくる。
「ばっ、こ、こんな所じゃ嫌だからなっ!」
「くくっ、こんな所じゃなきゃOKなんだな?」
頬に触れる指先が熱い。いや、熱いのは俺自身か。
「……っ、ばか」
うっすらと教室に差し込む夕日を背景に俺はゆっくりと日向の背に腕を回した。


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