No title
「なんで、オレなんだ。姫なんだからカントクがやればいいじゃないか」
「あ〜、ごめんね。当日あたし生徒会の仕事があって忙しいのよ」
涼しげな顔で言い放ち、ゆっくりと教室に向かって歩き始める。
そう言えば、カントクは副会長だったな。でもだからって簡単に引き下がるわけにはいかない。前を歩く日向とカントクの後をついて歩きながら、なんとか自分が白雪姫にならなくて済む方法は無いものかと考える。
「忙しいって……じゃぁ、黒子は? アイツ色白だし似合うんじゃないか?」
「アイツはチビだから小人要因。しかも、白雪姫を打診したら「僕は嫌です」とはっきりきっぱり断りやがった。程よい身長で、女装が似合いそうなやつって言ったら伊月しかいないんだよ」
「似合わないよ! て、言うか、程よくないだろう!? オレだって男子高校生の平均的身長だぞ? それに、高校生にもなってなんで白雪姫なんだよ」
言いながら頭が痛くなってきた。 芝居やるならもっといい題材が沢山あった筈だ。
「それは、だな……」
日向の話によれば、最初は飲食店を希望していたらしい。だけどやっぱり飲食店系は人気が高い。抽選の結果外れて、第三希望くらいに適当に書いていたお芝居がバスケ部に割り当てられた。
WCを目の前にしてオレ達には練習する時間があまりない。
だけど、せっかく芝居をするのにいい加減なモノは見せられない。
じゃぁ誰でも知っててセリフが覚えやすい話にしよう。と、いう事になったらしい。
小金井は戦隊ものをやりたいと最後までゴネていたらしいが。
「オレも出来れば戦隊ものの方が良かったよ……」
日向の説明を最後まで聞いたら、思わず切ない溜息が洩れた。とどのつまり、手っ取り早く白雪姫をやる事にしたのはいいが、誰も女装をやりたい人がいなくて、偶々その場に居なかったオレに押し付けたってとこなんだろう。
「ま、そういうことだから諦めろ」
「諦めろって言われても女装だぞ!? 女装! 誰だって嫌に決まってるだろう?」
似合うわけなんてないし、第一なにが悲しくて好きなやつの前で女装をしなければいけないのか。
「オレやっぱ小人やるから黒子に代わって貰おうかな。あいつの方が絶対に似合いそうだし――」
「伊月くん」
突然ぴたりと、教室の前でカントクの足が止まる。
「なんだ? カントク」
慌ててオレも立ち止まり、カントクに視線を向けた。
「代わるのは勝手だけど……これから毎日普段の練習五倍メニューやるのと、大人しく白雪姫やるの、どっちがいい?」
心底楽しそうに、カントクがにっこりと笑う。
有無を言わせぬ迫力に、思わずごくりと喉がなる。こうやって楽しそうにしてる時のカントクはマジだ。マジでオレに五倍のトレーニングをさせようとしている!
「……っ、白雪姫……やらせて、もらいます」
「わかればよろしい」
まさに鶴の一声。練習五倍を提示されたら、やると言わざるを得ない。
「……お前、鬼だな」
がっくりと項垂れるオレの横で、日向が可哀想にと呟いた。