No title

ふいに頬に、冷たい雫が伝った。視線を上げると、暗い空から糸のような雨が降り注いでいた。それはみるみるうちに濃くなって高尾の全身を包み込んでいく。
コンビニにでも行って傘でも買おうと思ったけれど、練習着のまま飛びだして来てしまったためにお金なんて持っている筈もない。
その事実に気が付いて、一人自嘲気味な乾いた笑いが洩れた。
「何やってんだろ俺……馬鹿みてぇ……」
雨が降ってくれて助かった。こんなみっともない姿、誰にも見せられない。
ずっと、会いたいと思ってた。今度会ったら、卒業式の日に言えなかった気持ちを伝えたいと。
両思いなんて最初から期待はしていない。
冗談っぽく言って、笑い飛ばされて終わり。それでもいい。
ただ、自分の気持ちを知って貰いたかった。
でも、宮地が自分のことをどう思っていたかまでは、考えたこと無かった。
まさか会いたくない程、嫌われていたなんて。
もしかして、今まで来なかったのは宮地がリア充だから。では、なくて自分が居たからーー?
一つの答えに行き着いて、無性に悲しくなってきた。
胸が押しつぶされそうになり、息苦しくて震える唇を開く。
「なんだ……そっか……告る前にフられるとかマジ……」
こみ上げる思いは涙となって、今にも溢れだしそうだった。必死に堪えて、それでも堪えきれなさそうで、拳で目を押さえつけた。
「ハハッ、ダッセー」
乾いた笑いは降りしきる雨の中に溶けていき、益々自分を惨めな思いにさせる。
切なくて、苦しくて、胸が引き絞られるように痛んだ。いっそ、声を上げて泣いてしまいたいくらいだ。
唇を噛みしめ耐えていると、不意に目元を覆っていた腕を、強い力で掴まれた。乱暴に引かれて、腕が外れる。
音を立てて降る雨の中、目の前に宮地が立っていた。


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