No title

「おい、待てよ宮地」
体育館の裏手にある水飲み場まで来たところで、後を追ってきた木村に呼び止められ足を止める。
「んだよ。もう、用は済んだぞ」
「お前、本当に高尾と話しなくていいのか?」
探るように問われ、僅かに肩がぴくりと跳ねた。
「別にアイツと話す事なんて何もねぇし……」
「嘘吐け。本当は伝えたいことあるんだろ?」
「……ねぇよ、んなもん」
「本当か?」
ポケットに手を入れ、短く息を吐く。
「本当も何も……元々顔見たら帰るつってただろうが。元気なのはわかったしそれでいいだろ」
「……なに逃げてんだよ。宮地」
「あ? 別に逃げてねぇし。意味わかんねぇこと言うな馬鹿」
「逃げてんじゃねぇか。そんなに高尾に会うのが怖いのか? 案外小さい男だったんだなお前」
あきれたような物言いにぎくりとして、身体が強ばる。
口調からして木村は高尾への気持ちに気付いていそうだが、それを素直に認められるほど大人ではないし、器用でもない。
「っせーな。さっきからなんなんだよ。俺は来たく無かったのにお前等がどうしてもって言うから来てやったんだ。高尾に会う必要なんて何処にもーー」
言い終わる前に一つの視線に気付いた。ハッとして顔を上げると木村の
後方に、見慣れた漆黒の短い髪が見える。
「ーー高尾……」
「すみませんオレ、立ち聞きとかするつもりじゃ……ただ、宮地さんの姿が見えたような気がしたから確かめに来ただけなんっすけど……」
言いながら声が震えているのがわかった。いつのもような笑顔は無く、どんな表情をしたらいいのか分からない様子で視線をさまよわせぽつりと呟く。
「オレ、宮地さんにそこまで嫌われてたなんて、知らなかった」
違う、そうじゃない! そう言ってやりたかったけれど、こう言うときに限って上手く言葉が出て来ない。
口を開いても微かに空気が洩れるだけだ。
「よく考えてみたら、そーっすよね。うぜーうぜーって散々言われてたし……」
高尾は俯いたまま、震える自分の拳を見つめながらぽつりぽつりと言葉を紡ぎ、やがて顔を上げ、泣き笑いのような表情を作ってみせた。
「……すんません。……ちょっとオレ今、混乱してて……ちょっと外周走って頭、冷やしてきます」
「あっ! おいっ」
するりと脇を抜け、走り去っていく。
「あーぁ、後輩泣かせちまったな。宮地」
こんな状況で他人事のようにしている木村に苛立ちを覚える。
本気で殴ってやろうかとも思ったが今はそれどころではない。
「わり、木村っ……」
「わかってるって。こっちのことは上手く言っといてやるから、早く行って誤解解いてやれよ」
ぽんと軽く背中を押され、やや前のめり気味になりながら小さく息を
吐くと、既に後ろ姿が見えなくなりつつある高尾の後を追った。


後編へ続くw


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