No title

{宮地視点}
体育館から威勢のいい掛け声が聞こえてくる。
バッシュのスキール音や、ボールが弾む音、異常な程高いループを保ったままコートの端からネットを揺らす緑間のシュート。
半年前と変わらない景色に、懐かしさで自然と胸が高鳴った。
「ーーーー」
「ほとんど俺たちがいた頃と変わんねぇだろ?」
「そう、だな」
つい半年前までこの中に混じって同じように練習していたのかと思うと不思議な気分だ。
あの時は毎日が必死で、客観的にみる余裕なんて何処にもなかったけれど。
「ーーほらそこっ! サボってんじゃねぇよ。見えてんぞ! そこも! ぼーっと突っ立ってる暇があったらパス練でもしろって」
よく通る声が体育館内に響き渡り、宮地はハッとして声のする方に視線を向けた。 
周囲に気を配りながら、緑間にベストなタイミングでパスを出しているのは、ずっと顔が見たいと思っていた高尾だった。
少し会わないうちに背が伸びたようだ。悪ガキっぽい部分はあまり変わっていないようだが
「こわーい先輩が居なくなって、伸び伸びしてんな。アイツ」
木村はニヤニヤと笑いながら、高尾をガン見している宮地の肩に手を置いた。
「意外と面倒見がいいんだよな」
「あぁ、確か中学ではキャプテンやってたらしいから後輩の扱いは慣れたモンだな。人当たりもいいし、何より視野が広いからアイツの前じゃサボれん」
監督への挨拶を終え、戻ってきた大坪も暖かい目で見守りながらウンウンと頷く。
輪の中心に居て、時折冗談も交えつつ的確に行動の指示を出す。
1年からのレギュラーと言う事もあり自分達が居なくなったら理不尽な言いがかりを付けられているのではないか?と。心配していたのだが、今見る限りでは、チームの雰囲気もよく、大きな問題は無いように見える。
何より、あの堅物緑間をチームに溶け込ませているのはやはり高尾の実力だろう。
自分たちが現役だったあの頃もそうだった。緑間より少し遅れて一軍入りしてきたアイツは、気がつけば輪に溶け込み、周囲に馴染めず黙々とワンマンな練習を繰り返していた緑間をチームの輪に引きずり込んできた。
緑間の一言でチームの雰囲気が悪くなりかけた時、それを笑い飛ばし話をすり替えたり、いつの間にか輪の中心にいてムードメーカー的な存在を担っていたのは間違いない。
高尾が居なければ緑間を理解する事も無かっただろうし、もっとギクシャクとしたチームになっていたかもしれない。大袈裟かもしれないが、全国三位と言う結果も残せなかっただろう。
「アイツら、頑張ってるだろ?」
「あぁ。そうだな」
チラリと宮地の方を見て尋ねてくる大坪の言葉に素直に頷いた。
そこに木村の横槍が飛んでくる。
「うっわ、宮地が素直に誉めるとか! 明日台風でも来るんじゃねぇか?」
「木村ぁ。てめっ、擽かれたいのか?」
自分だってたまには誉める時だってある。失礼なヤツだ。 
「ははっ、冗談だって」
「たくっ、……じゃぁ、俺そろそろ行くわ」
「え、何? もう帰るのか?」
「あぁ、様子だけ見たら帰るつもりだったし」
あまり長居して高尾に見つかったら、帰り辛くなってしまう。
緑間といちゃいちゃしているのを目の前で見せつけられるのは、正直今の自分にはキツい。
「一言くらい声掛けてやれよ」
「……また今度な」
大坪の言葉に曖昧な返事をしてくるりと踵を返す。
以前とあまり変わっていない高尾の元気な姿も見れたし、自分はそれだけで充分だ。


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