No title

「ーー女性を泣かせるのはあまり感心できた事ではないのだよ」
廊下から声を掛けてきた相棒の言葉にハッとして、感慨に耽っていた高尾の意識は一気に現実へと引き戻された。つい、考え込んでしまっていた自分に思わず失笑が洩れる。
「聞いてたのかよ。立ち聞きとか趣味悪りいな」
「べ、別に聞きたくて聞いていたわけではないのだよ! 俺は忘れ物を取りに来ただけだっ」
勘違いするな。と、眼鏡の位置を整えながらそっぽを向く。
そんな緑間の姿を見ていると何となく可笑しくなって自然と口元に笑みが浮かんだ。
「忘れ物ね〜……ま、いーや。つか、どうせ好きになれないってわかってんのに期待持たせる方がヒドくね?」
「そう言うものなのか?」
「そーいうもんだって。俺、真ちゃんが好きだからさ、他の子と付き合うとかねーし。つーか、もういっそ俺ら付き合っちゃわね?」
ニッと笑い掛けると、緑間は眼鏡を押し上げふんと鼻で笑う。
「お断りなのだよ」
「ひっでー。即答かよ」
「お前が好きなのは俺ではないだろう? 他に好きな奴が居る相手と付き合うほど俺はお人好しじゃない」
「あり? バレてた?」
きっぱりと言われ、張り付かせていた笑顔が一瞬ひきつった。
緑間に本心は一度も晒した事など無いはずだが……。
「バレバレなのだよ。俺が気付いていないとでも思っていたのかバカめ。無理が見え見えでみてるこっちがヤキモキする」
「……」
毎日お前を見ていればわかる。とまで言われてしまえば、返す言葉も浮かんでこない。
緑間とそのテの話をしたことは勿論ないし、宮地の話題は意識的に出さないようにしていた。
一体いつから気付いていたのだろうか?
完全に沈黙してしまった高尾を見て、緑間はふ、と短く息を吐いた。
そのまま窓の外へ視線を移し、思い出したようにそう言えばと口を開く。
「さっき大坪さん達が来ていたのを見かけたのだよ」
「へぇ〜」
「随分な反応だな?」
「大坪さんと木村さん、この間も来てただろ」
最後に様子を見に来てくれたのはインターハイ直前だったか。
前回、前々回と宮地は来ていなかったけれど今日はどうだろう?
会いに来ると言っていたのに、卒業後一度も顔を見ていない。
先輩達が来てくれるのは嬉しいけれど、木村から宮地情報を聞かされるたびに心が引き絞られるように痛む。
「大学生ってそんな暇なのか?」
「さぁな。大方可愛い後輩の様子が気になって仕方がないんだろう」
「ぶはっ! 真ちゃん自分で”可愛い後輩”とか言っちゃう? ぶっくくくっ」
「……っ、五月蠅いのだよ!  ほら、行くぞ!」
笑ってしまったのがカンに触ったのかギロリと鋭く睨まれて思わず肩を竦めた。
「へいへーい」
宮地は多分、今日も来ていないだろう。
彼は彼女と遊ぶのが忙しいのだと、木村が前に言っていたのを思い出して高尾はひっそりと嘆息した。


[prev next]

[bkm] [表紙]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -