No title
目覚めは最悪だったけれど、姉さんはそれ以上なにも追求してくることは無かった。
「おはよう、伊月くん」
いつもどうりの朝にホッとしながら学校に着き、靴を履き替えたところで既に来ていたカントクと日向に声を掛けられた。
「おはよう。カントクと、日向。オレに何か用?」
日向と目を合わせることが出来ないのはこの際仕方がない。
出来るだけ日向を視界に入れないようにして、カントクの方へと意識を集中させる。
「実は、渡したいものがあって……」
「渡したいもの?」
はいこれ。と、手渡されたプリントには中央に大きな文字で『文化祭のバスケ部における出し物について』と書かれている。
「見ればわかるでしょ? 今度の文化祭であたしたちバスケ部がやる内容の詳細よ。伊月くんは昨日、風紀委員の会議で居なかったから。無いと困ると思って」
そう言えば、昨日文化祭のことで話し合いがあるって言っていたな。
「へぇ、文化祭の内容か……ん?」
「どうかしたのか?」
「内容が無いよう! キタコレっ!」
「伊月、朝からそう言うのウザイ!」
ピンとキタオレに、すかさず日向のツッコミが入る。
それと同時に、カントクが眉間に手を充て小さく首を振った。
「え、ウザイ? いいと思ったんだけど」
「ぜんっぜん良くねぇから!」
ダジャレの良さがわからないなんて、相変わらず日向はノリが悪いな。
なんて考えながら、バスケ部の出し物要項に目を通し、どうしても納得の出来ない一文を見付けてしまった。
「……なぁ、一つ気になることがあるんだけど、聞いてもいいかな?」
「なに?」
「なんで白雪姫の所にオレの名前が載ってるんだよ」
オレが指をさした部分には芝居の内容が『白雪姫』であることと、各キャラクターを振り分けたキャスティングが一覧で載っている。
「なんでって、バスケ部全員でお芝居をする事になったからに決まってるじゃない」
「そーじゃなくて! 問題はそこじゃないよ。白雪姫って、姫だろ!?」
別に芝居がやりたくないとか、決まったことにケチをつけるつもりはないけれど、どうしても納得いかない。