No title

「なんだよ宮地。こんな時間に珍しいな」
木村が麦茶を差し出しながーブルを挟んだ向かいに座る。
「……うっせ。久々にお前のジャガイモ頭が拝みたくなっただけだ」
文句を言いつつ受け取って口を付けると、よく冷えた麦茶が乾いた喉に心地よく滑り落ちていく。
何となく部屋にいても落ち着かなくて久しぶりに木村の家にやってきた。
ちょうど閉店間際だったようで、後片付けを手伝わされたが、今はこの感覚がなんだか懐かしくて何処かホッとする。
久々に入った友人の部屋は相変わらず殺風景だ。壁いっぱいにアイドルのポスターが貼ってある自分の部屋とは全然違う。
「なんかあったのか?」
「……彼女と別れた。つーか、フられた」
注がれた麦茶を飲みながら答えると、木村は小さく笑いながら向かい合わせで座り自分もグラスに口を付けた。
「またかよ。ついこの間もんな事言ってなかったか?」
「余計なこと言うな。擽くぞ」
ぎろりと睨みつけてやると木村は肩を竦める。
流石三年間苦楽を共にしてきたチームメイト。睨まれたくらいで動じる事はない。
「なんでか長続きしねぇんだよ」
伸びかけの前髪を掻き揚げ短く息を吐く。
「はっはー。ソレ、オレに対する嫌味か? 大方お前の部屋と趣味を知って一気に冷めたってパターンだろ」
「俺、基本的に他人を自分の部屋に入れねぇから、ソレはねぇ。つか、人の家に押し掛けてくるような女は、こっちからお断りだっつーの」
そもそも、彼女の前でアイドルの話をしたことはない。
リアルと理想は別だと思っているので、今まで付き合ってきた子達も含め本当の趣味について誰も知らない。
「じゃぁこの間みたいに、ちょっとキレたら逃げられたってヤツか。キヨ君怖〜いって」
「気持ち悪い声出すな! キレてねぇし。ちょっと睨んだだけだ。口が悪いのは仕方ねぇだろうが。大体、ちょっと凄んだくらいで泣くとかマジ面倒くせーし。んなもん高尾なら余裕で……」
言い掛けて、ハタと口を噤んだ。高尾と比べてどうする?
二人の間にほんの一瞬、間が出来る。
「なんか俺、お前が長続きしない理由……今、わかった気がする」
「憶測で物を考えるな馬鹿! 擽くぞ」
「ハハッ、はいはい。あ、そういやさ今度アイツ等の様子見に行こうって大坪と話してたんだけど……」
「俺、パスな」
「たく……お前、この間もそう言って行かなかっただろ」
「うるせーな。俺は忙しいんだよ」
「彼女と別れたばっかで、時間空いてんじゃん」
夜食代わりにと用意された梨を食べながら鋭い指摘をされて言葉に詰まっった。
「顔見せるだけでいいから行こうぜ? つか、お前連れていかねぇと高尾が五月蠅いんだよ」
高尾が。と言う単語に目を見開いた。
それを見透かしたかのようにニヤリと口角を上げた木村に気づきチッと小さく舌打ちを一つ。
「じゃぁ、顔見せるだけだからな! 見せたら速攻帰るぞ俺は」
「ハイハイ。わかった、わかった」
相変わらず素直じゃねぇな。と、呟いた木村の言葉は無視して、宮地は盛大な溜息を吐いた。




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