No title

晴れない気分で家に着き、倒れ込むようにベッドへ突っ伏した。
彼女の言葉に直ぐ、違う! と反論する事が出来なかった。
元々、ごり押しされるような形でつき合い始めたと言う経緯もあるが、彼女の指摘どうり、ここ最近は気付けば高尾の事を考えてしまっている時間が増えていたのも事実。
彼女は一体いつから気付いていたのだろうか?
高校の頃の話が聞きたいと言うので、写真を見せながら話したことならあるが、極力当たり障りのない話をしたつもりだったし、彼女の前で高尾の話題は意識的にしないようにしていた。
彼女と高尾は別なのだからと、何度も自分に言い聞かせて慎重にしていたはずだったのに。
「女ってのは、よく見てるモンだな……」
思わず吐き出してしまいそうになる溜息を呑み込んで、ごろりと寝返りを打った。
勢い余ってサイドテーブルに手をぶつけてしまい、上に置いてあった雑誌等が派手な音を立てて床に落ちる。
寝転がったまま腕を伸ばし、落ちた雑誌を拾い上げていると一枚の色紙に目が留まった。
卒業祝いと称して卒業式の日に部の後輩達から送られた寄せ書きだ。
バスケ部だからと、わざわざバスケットボールの形をした色紙を選んで買ってきたらしい。
そう言えば、最後に会ったのはいつになるだろうか?
卒業式の日。目に溢れんばかりの涙を溜めて、くしゃくしゃの笑顔で「おめでとうございます」と、言ってくれた。
いつも騒がしいほどによく喋る高尾がほとんど口を開かないから、珍しいこともあるんだな。と、大坪達と笑ったのを覚えている。
恐らくあの日が最後ーー。
時々練習を覗きに行くからと言ったっきり、一度も会いに行っていない。
結局在学中、自分の気持ちを伝えたことは一度も無かった。
元々伝えるつもりも無かったし、きっとコレは一時的な感情なのだと自分の気持ちに無理矢理蓋をしてやり過ごしてきた。
高尾は緑間が好きな筈だから、フられるのは目に見えている。
告白してギクシャクする関係になるくらいなら、怖い先輩のままでいた方がいい。
大学で新しい出会いがあれば、いつか高尾への気持ちも薄れるだろうと期待していたのに、会わなくなってから日に日に高尾への思いは強くなっていくばかり。
色紙に書かれた「ずっと前から好きでしたww」と言う文字を見るたびに胸がギュッと締め付けられるように苦しくなる。
これを書いた真意はわからないが、冗談好きなアイツの事だからきっと深い意味は無いのだろう。
何度か寝返りを打って、ふと時計に目をやった。
外は大分暗いがきっと高尾はまだ学校にいる筈だ。
毎日飽きもせず緑間と遅くまで居残って練習を続けているに違いない。
ーー緑間と、二人きりで。
その光景が目に浮かぶようで胸の奥に苦い物がこみ上げてくる。
今更何を考えているんだ俺は。
あの二人が一緒にいる所なんて今まで散々見てきたじゃないか。
「あー、くそっ」
どうにも心がざわついて落ち着かない。
胸をかきむしりたいような衝動に駆られ幾度と無く寝返りを打った。


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