No title

「私ね、他に好きな人が出来たの。だから、別れて欲しいんだけど」
大学での講義も終わり、駅まで歩いているときに、恋人の沙希が突然言った。宮地清志の足が止まる。
肌に感じる風も少しずつ涼しさを感じるようになった、9月の半ばのことだ。
「笑えねぇ冗談だな」
全く寝耳に水の言葉に思わず眉間に皺が寄り、数歩先を行く彼女の背中を睨みつけた。
「俺の何が気に入らないんだ」
数ヶ月前、彼女の方から告白してきたのがつき合い始めたきっかけで、それ以来彼女の為だけに時間を割いてきたつもりだ。
喧嘩らしい喧嘩はしたこと無かったし、小さな我が儘なら大抵は目をつぶってきた。
遊園地や海、花火大会など、彼女が行きたいと言った場所、やりたい事、ほとんど叶えて自分が出来ることをしてきたはずなのに。
「だって清志、全然私の事見てくれてないし……」
「は? 意味わかんねぇ」
彼女の言っている意味が理解できずに益々表情が険しくなってしまう。
此処でキレてしまってはいけないと思いつつ、突然の別れ話に苛立ちを隠しきれない。
「清志の目に映ってるの、私じゃないでしょ? 一緒にいるとき、いつも違う人のことを考えてる」
「……っ」
忘れられない人がいるんでしょう?
くるりと振り返った彼女に見上げられ、ギクリと体が強ばった。


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