No title

『いっそ今年いっぱい、いや卒業するまでずっと、入院してくれればいいのに……』
そしたらちゃんと、日向は俺の方を見てくれる。
そんな醜い感情がドロドロとした澱のように溜まって俺の心を締め付けていく。
「伊月、どうした? 急に黙り込んで」
不意に掛けられた言葉にハッとして顔を上げたら、日向が不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「あ、ううん。なんでもないよ。良かったな、日向……」
「いいわけねぇだろ、ダアホッ! アイツが戻ってきたら苛々が増えるだけだっつーの!」
「……本当は嬉しいくせに」
「なんか言ったか?」
ぎろりと睨み付けられて、思わず肩を竦めた。
「なんでもない。あ!、ほら。雨……やんだみたいだよ」
さっきまでの豪雨は何処へやら、どす黒い雲は何処かへ消え去り雨
は霧雨へと変わっていた。
この調子ならじきに雨もやむだろう。
「おー、コレでやっと帰れんな」
「そうだな……」
もう少し、日向と話をしていたかったな(木吉の話題以外で)
別に意識して帰らないようにしていたわけでは無いが最近はお互いなんだかんだと忙しくて別行動が当たり前になっている。
帰り支度を始めた日向を何となく眺めていると、日向が動きを止めて不思議そうに俺を見た。
「何やってんだよ、行くぞ」
「え?」
「え? じゃ、ねぇよ。途中まで一緒だろお前」
もしかして一緒に帰ってくれる、のか?
当たり前のように向けられた視線が嬉しくて、思わず表情が緩んだ。
「何ニヤニヤしてんだよ。気持ち悪い」
「気持ち悪いって……酷くないか、ソレ?」
「事実だろ」
言いながら、早く来ないと置いていくぞとばかりに一歩先を行く日向。

雨は昔から嫌いだった。
それは今でも変わらないし、たぶんこれからも変わらない。
だけど、嫌なことしかないと思っていたけど、この夕立が無かったら、こんな場所で日向と会うこともなかったんだ。
そう考えると、あながち雨も悪くないのかも知れない。
雲の切れ間から現れた大きな虹を見ながら、すがすがしい気持で俺も一歩を踏み出した。


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