No title

「伊月? おまっ、なん……!?」
「やっぱり日向だった。奇遇だな、こんな所で会うなんて。って言うか、なんだよお化けにでも出くわしたような顔して」
「あ、あぁ悪い。まさかこんな所でお前と会うなんて思ってなかったから。家、反対方向だろ?」
「俺は欲しい本があったから、本屋に寄った帰りだよ。日向は?」
そう聞いてしまってから、しまった。と思った。
日向がやってきた方角には木吉が入院している病院がある。
「俺? 俺は木吉の見舞い。殺しても死ぬようなタマじゃねぇから全然心配はしてねぇけど、一応試合の報告も兼ねて様子だけ見に行ってやろうと思って、さっき行って来たとこだ」
「そっか……」
案の定な答えに月並みな返事しかできなかった。
報告なんてカントクがメールでしてる筈なのにわざわざ会いに行くなんて……。
ホントに心配してたわけじゃねぇからな! なんて、誰も聞いてない言い訳をしながらほんのりと頬を染める日向の姿に胸が痛くなる。
「アイツ、呑気に同室のじーさん達と花札してやがったんだぜ? あまりにも暇だったからとか何とか言ってよ〜……」
「へぇ、元気そうじゃないか」
「あぁ。怪我の具合もだいぶいいみたいで、もうすぐ退院できるつってた」
「へ、へぇ……」
近いうちに木吉が戻って来るかもしれない。
そう思った瞬間、血の気が一気に引いていくのがわかった。
チームメイトとして、木吉が戻って来るのは凄く嬉しい。だけど、それってつまり、日向が俺の方を見てくれなくなるって事だ。
日向が木吉の事を好きなのは火を見るより明らか。(本人は否定しているけれど)
恒例になりつつあった、二人の夫婦漫才のような会話を聞かされるのは、少々きつい。
木吉がもっと嫌なヤツだったら良かった。
そしたら、いくらでも嫌いになれたのに。
俺から日向を奪っていく木吉が憎い。
だけどアイツはいいヤツすぎて、どうしても心の底から嫌いになれない。
頭が良くて、バスケも上手くて、人を魅了するだけの力があるとか反則だろ。
それでいて全部計算なんじゃないかって思うくらいの天然ボケをかましてくる。
日向の事が好きな気持ちは誰にも負けないつもりだけれど、木吉に勝てる要素が何一つ見つからない。


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