No title

「あー、腰やべー。明日部活休むことになったら宮地さんのせいっすからね」
鈍く痛む腰を擦りながら、着替えを済ませカバンを掴む。
「なんだよ、もっとゆっくりして行けばいいのに」
暢気にソファに座ったまま、宮地さんが読んでいた雑誌から顔を上げてそう呟く。
「真ちゃんと約束してるって、昨日言いましたよね俺。宮地さんが朝からサカるから約束の時間に遅刻しそうなんっすよ」
キッと睨みつけた視線を軽く流し、「そう言えば、そうだったな」なんて肩を竦める。
本当ならもうとっくに真ちゃんの家に着いてるはずだったのに。
「お前も大変だな。休みの日までアイツと一緒なんて」
「別に好きでやってるんで。気にはならないっす」
俺の言葉に宮地さんの眉がピクリと跳ねる。
「ふぅん……そういうもんか」
「そういうもんなんです。じゃぁ俺もう行きますから」
「あ、ちょっと待て」
急いで玄関に向かおうとした俺を何故か呼び止める宮地さん。
「コレを緑間に渡しといてくれ」
「いーけど、なんすかコレ?」
すっと差し出された紙袋にはCDらしきものが一枚。
「この間に緑間に貸すって約束してたんだよ。ずっと忘れてたんだ。ついでだし、いいだろ?」
そう言って、俺のカバンに紙袋を押し込む。
「まぁそれくらいなら……」
「そっか、悪いな」
カバンを閉めると、ヒラヒラと手を振る宮地さんの家を後にした。

その数十分後――。
約束の時間ぎりぎりになって真ちゃんの家に到着した俺は、忘れないうちにと宮地さんから受け取ったCDを手渡した。
「なんなのだよ?」
「へ? なんか知んねぇけど、宮地さんが真ちゃんに貸してくれって頼まれたって……」
「宮地さんが?」
不思議そうに繁々とソレを眺める真ちゃん。
「まぁ、聞いてみればわかるんじゃねぇ?」
「それもそうだな」
小さく息を吐いて真ちゃんがCDを受け取るとデッキにそれを挿入する。
「なぁなぁ、俺も一緒に聞いてもいいか?」
「ああ……」
「一体何が入ってるんだろうな?」
「さぁな」
真ちゃんが再生ボタンを押したその瞬間――。

『あっあ……宮地さ……っ』
「!?!?!?」
部屋中に響き渡ったのは明らかな喘ぎ声。ベッドが軋むスプリングの音が昨夜の行為を思い起こさせる。
一瞬、何が起こったのかわからずに俺の頭の中は真っ白。
「こ、これは一体」
「あ、あはっ、ははは……っ」
呆然とそのCDから流れてくる音と俺を見比べる真ちゃんと、もう笑うしかない俺との間に冷ややかなヤバイ空気が流れてくる。
宮地さん、マジ趣味悪りぃ。
俺にこの場をどうしろって言うんだよ。
人を馬鹿にしたような笑みを浮べながら腹を抱えて笑う宮地さんの姿が目に浮かぶようで、引きつり笑いしか出てこねぇ。

取り敢えずこの場を何とかしないと。
突き刺さるような真ちゃんの視線を感じながら、俺は盛大な溜息を吐いた。


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