No title

その日宮地の機嫌は最悪だった。朝晩の寒暖の差が激しい為、喉をやられてしまったらしい。辛うじて声は出るもののどうにもイガイガした感じが取れない。
不快な気分のまま一日を過ごしのドアを開けると、中にはいつも賑やかな一年、高尾和成が一人で着替えをしていた。どうやら相方は席を外しているらしくカバンのみあるものの本人の姿が何処にも見当たらない。
「ちーっす宮地さん! 今日も早いっすね」
「おう。そういうお前らの方が早いだろうが嫌味か? 轢くぞ」
「ぶはっ! 相変わらず怖ぇ〜っ」
なんて笑いながら肩を竦める高尾の姿にまで若干の苛立ちを覚える。
あぁ、ダメだ喉の違和感を何とかしなければ部活中ずっと苛々してなくてはいけない。
それは自分としても本位ではないので、宮地は深く息を吐くと今まさにバッシュを履こうとしていた高尾に思い切って「のど飴を持っていないか?」と、聞いてみた。
「どうしたんっすか宮地さん風邪?」
「違うっ! ただ単に喉がイガイガすんだよ。つか持ってんのか持ってないのかどっちなんだ」
そう尋ねてみれば、高尾は「ちょっと待っててくださいね」と言いながら緑間のカバンの中を漁り始める。
人のカバンを勝手に開けてもいいのか? と、思わずツッコミを入れてしまいたくなったが仲が良すぎる二人の事だからその辺は暗黙のルールがあるのだろうと敢えてツッコむのをやめた。
「あ、ありました! はい、なんかよく知んねぇけどすっげー喉がすっきりするらしいっすよ」
はい。と手渡されたのは茶色い小瓶に入った飴玉。
瓶の中に入っている飴なんて珍しい。一口サイズのソレは茶色い瓶に入っているということを除けば至って普通の飴玉に見える。
「勝手に貰っていいのか? つか、緑間は?」
「いいんじゃないっすか? 沢山あるんだし。真ちゃんなら先生に用事があるとかで後から来るって」
確かに、中にはまだいくつもの飴が残っているようだ。
「そうか。じゃぁ一個貰うわ」
宮地はその中から一つ選ぶと、深く考えずにひょいと口の中へと放り込む。
口中に甘いミルクの味が広がって何処か懐かしい味がした。
「じゃぁオレも真ちゃんとこ行ってるんで」
「おー。飴、サンキュ。緑間にも言っとけよ」
「ぶはっ、つーかそれ自分で言えばいいのに……」
「なんか言ったか?」
「なーんも。お疲れっす」
睨み付けると、流石にヤバいと思ったのか高尾は肩を竦め逃げるように部室を出て行ってしまった。
残ったのは宮地のみ。
この時間なら恐らく木村や大坪も既に練習を始めているはずだ。
まだ遅刻とは言い難い時間だが、宮地達3年にとって残りの時間は限られている。早めに行って少しでも多く練習するに越したことは無い。
「よし! オレもさっさと着替えて――っ!?」
ロッカーに手を掛け、服を脱ごうとした瞬間。突然くらりと視界が揺れた。
目が回ってとてもじゃないが立っていられない。
「な、んだ……これ?」
突然の気分不良に戸惑う暇もなく全身から力が抜けてゆく。
ロッカーを背に凭れるようにして腰を下ろした宮地はそのまま眠る様に意識を手放した。


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