No title

夜8時を回ったころ、宮地はバイトを終えて最近二人で同棲を始めたアパートに戻る。
大学に入ったらルームシェアさせて下さいと言い出したのは高尾で、お互い経済的にも楽になるからとOKしたのはまだ記憶に新しい。
五月蠅いくらいによく回るあの口はうざいと思う事の方が多いけれどそれでも、高尾が部屋で自分を待っていると思うと、胸が甘く疼くような高揚を覚える。
そんな風に思えるようになった自分が不思議だった。
ドアを開けると、直ぐに中から高尾が出迎えにやってきた。
「宮地さん、お疲れさまでっす!」
嬉しそうに笑うその顔がなんだかくすぐったい。どれだけ大学やバイト先で嫌なことがあっても高尾の笑顔を見ると何処かへ吹っ飛んで行ってしまうから不思議だ。クシャリと高尾の髪を撫でると、高尾は上目遣いで見つめながら不満そうに口を尖らせた。
「宮地さん、帰ってきたら「ただいま」って言ってください」
挨拶は基本っしょ? なんて言われ、小さく舌打ちを一つ。
普通に会話する分には問題ないのだが、高尾相手に「行ってきます」や、「ただいま」を言うのはまだ慣れないし何となく照れくさくて、それを誤魔化すように顎を掬って口づけた。
「んっ、みやちさ……ちょっと待……ッ」
「?」
高尾が身を捩って逃れようとする。なぜ嫌がるのかと不思議に思っていると
「おーおー、なんか新婚さんみたいだな〜」
甘い空気をぶち壊すような聞き覚えのある声が二人の空気の邪魔をした。
高尾が真っ赤になって視線を逸らす。声のした方に顔を向けるとリビングへ続くドアからよく見知った顔がひょっこりと顔を覗かせていた。その奥のソファに緑色の目立つ頭も見える。
「……」
「あ、あのっ大学の帰りに偶然木村さんに会って……久々にみんなで集まろうかって話になって大坪さんにも一応声かけたんっすけど、用事があったみたいで……」
元チームメイト達にキスシーンを目撃された事に動揺し高尾がもごもごと早口で説明する。
一応メールは送ったんですけどと言われ、改めて自分の携帯を見てみれば確かに未開封のメールが一件届いていた。
「もしかして俺達お邪魔だったか?」
「えっ? いやっ全然! そんな事な……」
「あぁ、すっげぇ邪魔」
高尾の言葉を遮って言ってやる。メールに気付かなかったのは失態だった。
顔見知りとは言え他の男の存在にモヤモヤとした嫌な感情が頭を擡げる。


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