No title

目が覚めると、周囲は闇に包まれていた。ここは一体何処だ?

見慣れない古い天井を夢現のまま眺めていると、すぐ隣で何かが動く気配がした。

数人の頭が見えて、何処からともなく大きないびきが響いてくる。

あぁ、そうだった。オレ達は今、夏の合宿真っ最中じゃないか。

ゆっくりと覚醒していく意識の中で一昨日から始まった地獄の合宿が走馬灯のように脳裏を過ぎる。

今、何時位なんだろう? 何気なく気になって寝返りを打とうとしたその時。

「……んっ、……ふ……馬鹿っ! 何考えてんだっ!」

ボソボソとくぐもった声が聞こえた。

目だけで声の出処を探ろうとして思わず絶句。すぐ目の前に二つの顔が見えた。

ちょっと待て! なんで顔が二つある!?

不自然に膨らんだ日向の布団からは確かに顔が二つ出ている! 鼻と鼻が今にもついてしまいそうな二人の距離にギョッとしてオレは僅かに身を引いた。

え? なに、日向起きてんの?

てか、なんで木吉が日向の布団に潜り込んでるんだ!?

半分パニックに陥りながら、二人に気付かれないように上掛けの中で息を潜めた。

「止めろって、おまっ……誰か起きたらどうすんだっ!」

「大丈夫だろ? みんなぐっすりと眠ってるさ」

そんな会話が耳に届き、ようやく状況が飲み込めて来る。

これって所謂――夜這いと言うヤツでは!?

て、言うかオレ、起きてるんだけど。なんて、思いながら複雑な思いが胸を駆ける。

全身から嫌な汗が噴き出して、ダラダラと背筋を伝う。

木吉が日向の事を狙っているのは前々から気付いていた。だけど、日向は全く相手にしている様子はなかったから木吉の片思いなんだとばかり思っていた。

だけど……。

なんで抵抗しないんだ、日向!?

本気で嫌だったら蹴るなり殴るなり出来るだろう?

見ている限り、言葉では抵抗しているものの、本気で嫌がっている様子はない。

「ん……てめっ! 合宿中に手は出さねぇって約束……!」

「そうだったか? ん〜、じゃぁ足ならいいか?」

「な……っっ! ざけんなダアホ!!! いいわけねぇだろうが!!」

「シーッ。大きな声を出すとみんな起きるぞ〜」

スッと木吉の大きな人差し指を口元に押し当てられて、日向はグッと黙り込んだ。

耳まで赤くしてふいとそっぽを向く日向。危うく視線が合いそうになって、オレは慌てて寝たふりを決め込んだ。

「と、とにかく! 俺も疲れてるし寝るから! 木吉もアホな事ばっかしてないでとっとと寝やがれ!」

「え〜」

「え〜、じゃ、ねぇ! ダアホっ! 眠いんだよ俺は!」

「おれは眠くないぞ」

「知るかっ!」

ボフッと音がして生暖かい風が頬を撫でた。そっと目を開けてみると目前に日向の顔があり息が詰まる。


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