No title
「……降りんぞ」
電車が次の駅へ着いた瞬間、ドアが開くと同時に腕を掴まれた。
えっ? と、戸惑う間もなく車内から無理やり引き摺り下ろされ呆然となる。
何が何だかわからないうちに背後でドアが閉まる音がして、緑間たちを乗せたまま電車は再び動き出してしまった。
「ちょ、宮地さんっ! 何考えてんっすか!?」
「五月蠅せーな! ギャーギャー騒ぐな! 轢くぞマジで」
「だっていきなりこんなトコで降りるなんて」
「お前が、もうもたないって言うからだろうが!」
改めて周囲を見渡せば、そこまで広くない構内が一望できた。
利用客が少ない場所なのか、辺りは閑散としている。
「大体、宮地さんがあんな悪戯するから悪いんですよ……」
思い出したら急に恥ずかしくなってきた。
緑間の目の前であんな事するなんて、穴があったら入りたい。いやむしろ埋まってしまいたい。
「……」
「真ちゃんに絶対変に思われた。マジ最悪。今度会った時なんて言い訳すればいいんっすか」
「知るか! 適当に言っとけよ。んなもん……そんな事より」
半ば強引に腕を取られ、戸惑う間もなく狭い構内を無理やり歩かされた。
古ぼけた障害者用トイレに連れ込まれドアを閉じるなり壁に押し付けられてしまう。
「うわっ、ちょっ……」
「……セキニン取って、ヌいてやるよ」
熱を孕んだ声に耳元で囁かれ、息が止まりそうになる。
「最初から、そのつもりだったんでしょ? 宮地さん」
「さぁ、な。お前がマジで嫌だっつーなら何もしねぇし。オレは優しい先輩様だからな」
「ふはっ、嘘ばっか。そーやって自分を正当化させようとするなんてズルいっすよ。……んんっ」
本当に、ズルい。
獰猛な光を帯びた目で見つめながら、快感を煽るような触れ方をされたら拒否なんて出来るハズもないのに。
「で、どうするんだ?」
「……セキニン取って気持ち良くしてください……」
「了解」
ククッと満足そうに笑う宮地の背に腕を回し、身体を預けながら高尾はひっそりと息を吐いた。