No title
「――オイ」
「!」
机に突っ伏して頭を抱えていると、教室の隅から聞き慣れた声がして高尾は跳ね起きた。
「んなとこで何やってんだ」
「……み、宮地さん。え、なん、で」
ついさっき下で女の子に囲まれていたのに、なんで今ココにいるんだろう。
走って来たのか、やや呼吸が乱れている。
「ここ、3階っすよ。しかも1年の……」
「知ってるつーの! つか、先輩様に走らすとはいい度胸だな。お前の方からオレんとこに来るのが常識だろうが。轢くぞてめぇ!」
「あだだだ、んな事知らねーっすよ。つか、宮地さんが勝手に……」
黒い笑顔で理不尽な事を言いながらグリグリと頭を拳骨で締め上げられてあまりの痛さに涙が滲む。
「つーか、別に走ってくる必要ねぇっしょ。そんなに俺に会いたかったんっすか?」
「……っ」
へらへらと笑って言ったら、宮地が急に黙り込んだ。
てっきり「んなわけないだろ!ざけんな」とか言いそうだったのに。
目線を上げると耳まで真っ赤に染まった宮地が目の前にいて、その顔を見た途端、伝染したようにじわじわと自分の頬が熱くなっていくのがわかった。
「違う! ただ、お前が窓から見てんのがわかったから……。今、行かないともうお前に会えないような気がしたんだよ」
「ふはっ、なんっすか……それ」
「お前今日、オレに会わないつもりだったろ」
「!」
自分の気持ちを見透かされてしまったようでぎくりと身体が強張る。
息をするのも億劫になりそうなほどの重苦しい空気が二人を包み込み、高尾は視線を落とした。
「ハハッ、何言ってんっすか……んなわけ、ないっしょ。自意識カジョーじゃないんっすか?」
「……そうか、ならいい。つーか、大坪たちにはちゃんと挨拶くらいしとけよ」
ぽつりと呟いた言葉に、宮地は小さく溜息を一つ吐いた。
ぽん、と頭を撫でられ胸が引き絞られるように苦しくなる。
「あ〜、そうそう。コレお前にやるわ。いらねぇつったら轢く」
「え」
グイと手を掴まれて、掌に何か硬い物が乗せられた。そっと確認してみるとそこには見慣れた形のボタンが一つ。
「え、コレって」
「オレの第二ボタン。大事にしろよ」
くるりと踵を返し、手をひらひらさせて宮地は教室を出て行こうとする。
高尾は咄嗟に彼の学ランの裾を握りしめていた。
ゆっくりと宮地が振り返る。