No title

「〜〜最悪。俺、もう死にたい……」

まさか、よりにもよって真ちゃんのユニフォームにぶっかけるとか。あり得なすぎて自分が許せない。

「ま、いいんじゃね? 次の試合までに洗ってコッソリ返せば」

「っ! そう言う問題じゃないっすよ! アイツにバレたら俺マジで生きていけない……」

「…………」

冷ややかな目で見られるだけならまだいい。だけど、真ちゃんの隣にいられなくなるのは絶対に嫌だ。

給水タンクの縁に顔を伏せて凹む俺を見ていた宮地さんは、「マジ面倒くせ〜な、お前」
と呟いて俺の隣に腰をおろした。

「あのさ、前から思ってたんだ。……なんで、そんなに好きなのに告らないんだよ」

「俺、別に真ちゃんと付き合いたいとかないんで」

「は? 意味わかんねーし!」

理解できない。と、言った風に宮地先輩の眉間に深いシワが寄る。

「真ちゃんは俺の憧れなんです。綺麗すぎて手が出ないって言うか……きっと、俺がこんな感情持ってるって知ったら、アイツ絶対引くだろうし。10がダメなら0になるとか嫌なんで」

真ちゃんが、俺の気持ちに気が付かなければずっと隣にいられる。だけどもし、気が付いてしまったら?

受け入れてくれるならいいけれど、清廉潔白な真ちゃんの事だからきっと俺から離れて行ってしまうだろう。

そんなのは、嫌すぎる。とてもじゃないけれど耐えられない。

はぁ。と、再び大きな溜息が洩れた。その途端、黙って聞いていた宮地先輩がいきなり俺の頭をポカリと殴った。

「いって〜〜。いきなり何するんっすか!?」

「お前さ、緑間の事を神格化しすぎ! そういうのマジうぜーっ!」

「宮地……さん?」

「緑間だって人間だろうがっ! あんだけお前にスキスキ言われてて気付かないわけねぇだろアホ! 大体、告る気がないとか言いながら、心の底では望んでるんだろ? 本当は俺なんかじゃなくて、アイツに……って」

一気に捲し立て、肩で荒い息をしながら鋭い視線を俺に向けてくる。

つーか……なんで俺よか、宮地さんの方が泣きそうな顔してんだ。

「――っ、とにかく! お前見てるとマジでイライラすんだよ」

どうして、宮地さんが怒るんだ? もしかして……。

「宮地さん、もしかして俺のこと心配、してくれてたんっすか?」

「はぁ!?」

よっぽど意外な一言だったようで、宮地さんはア然とした表情で俺を見つめた。

「な、ばっっかじゃねぇ!? なんで俺がお前の心配なんか! つか、ウジウジ悩んでる
お前がウザかっただけだっつーの! あんまおかしな事言うともういっぺん犯すぞ!」

言葉とは裏腹に、ほんのり耳が赤くなっている事に気が付いて急に可笑しさが込み上げてくる。

笑っちゃいけないと思って必死に笑いを堪えていると、宮地先輩が小さく肩を竦めた。

「高尾はさ、暗い顔より笑ってる方が似合ってんだよ。ウジウジ悩むとか、らしくねぇことすんなって!」

ぽんぽんと俺の頭を撫でて、俺が手に持っていた汚れた真ちゃんのユニフォームをひょいと掴む。

「お前が緑間に言う勇気ないなら俺が代わりに伝えてやろうか?」

「えっ!? いやいやいやっ! ソレ有り得ないからっ! マジやめて先輩っ!」

人づてに告るとかそんなの嫌すぎる。

「ククッ、ま、もしアイツに玉砕されたら俺が拾ってやるから心配すんな。まぁ、そんときは絶対に緑間轢くけどな」

なんて物騒なことを言いながら、宮地さんは衣服を整えさっさと屋上から出て行ってしまった。

宮地さんって、怖くて性格悪い奴だと思ってたけど、俺が考えてた以上にいい人なのかもしれない。なんだかんだで、真ちゃんのユニフォーム持ってってくれたし。

去っていった後ろ姿を見送って、小さく息を吐いた。

「俺もそろそろ帰ろっかな。真ちゃん待ってるだろうし」

昼休みが終わるまであと一〇分。

乱れた着衣を整えて、痛む腰に苦笑しつつ俺も部室棟を後にした。



『――明日の朝練前に部室に集合な! 来なかったら緑間に全部バラしてやる!』

その日の夜、メールボックスに入っていた内容を見て、俺はガックシと項垂れた。

いい人かもしれないって思ったのは俺の一時的な気の迷いだったみたい。

俺の受難は、まだまだ続きそうだ。



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