No title
体育館から民宿へと戻る途中、小さな公園を見付けた。その近くに階段があり、そこから直接海に出られるようになっている。
公園のベンチには既に数組のカップルがいたが、海岸は人気が無さそうだ。
「少し下りてみようぜ」
「え、でも夕飯に遅れると大坪さん五月蠅いっすよ」
「ちょっとくらいいいだろ。それとも、オレと二人きりになりたくないのか?」
「そんなこと……」
ムッとしたように宮地の目が鋭くなり、高尾は慌てて首を振った。
ただでさえ自由な時間が極端に少ない合宿中。好きな相手と二人きりになるのに異論はない。
公園の外灯から洩れる僅かな光を頼りに階段を下りると、周囲は一面闇に覆われてしまう。
足元が覚束かず、ともすれば柔らかい砂地で足をとられ転んでしまいそうだ。
数歩先に行く宮地を見失わないよう、彼の服の裾を掴んで後をついて行った。
階段の横の塀に沿って歩けば、直ぐに周囲は闇と同化してしまい誰からも気付かれない二人だけの世界が広がっている。
「キレーっすね……」
「あぁ」
空を見上げれば、宝石を散りばめたような星々が輝いている。煌々と辺りを照らす月も、地元で見ているものと変わらない筈なのに少し場所が違うだけで輝きが違って見えるから不思議だ。
聞こえるのは波の音、そして時折すぐ側の国道を走る車の音だけ。
誰かといてこんなにも話さないのは珍しい。でも決して気まずい空気じゃない。
寧ろ黙っているのが自然に思えて、しばしその光景に魅入っていた。
視界の端で宮地がフッと僅かに笑った気がする。
なんだろう、と思い振り向こうとした瞬間、後ろから宮地の腕に引き寄せられた。
「う、ぉっ……ちょっ宮地さん!?」
「たくっ、色気ねぇな」
塀に凭れた宮地の胸に抱きとめられて、慌てて顔を上げたら彼がふわりと表情を崩した。
苦笑しながら頭を撫でられて、心臓が大きく跳ね上がる。
「あのっ俺、風呂入ってないから汗臭いっすよ」
「別に臭くねぇよ、バーカ。こうしてると落ち着くんだ」
宮地の顎が肩に乗り、熱い吐息が首筋にかかる。ぞくりとしながら高尾は彼の腕の中で身を固くした。ドクンドクンと鼓動が早鐘を打って今にも口から飛び出してしまいそうだ。