No title
そう言えば宮地の用事って一体なんだったのだろう。
火照った体を宮地に摺り寄せベンチに凭れていると、ふとその事が頭に浮かんだ。
声に出したつもりは無かったけれど、無意識に漏らしていたらしい。横から言いにくそうに宮地が答えてくれた。
「あ? ぁあ、あれはもういいんだ。意味なくなっちまったし」
なんとも歯切れの悪い答えに思わず眉を顰める。
「どういう意味すか?」
「……用事があるっつーのは、単なる嘘だ」
「嘘!?」
「その、お前の顔見たら歯止めが利かなくなるような気がしてさ……俺も色々限界だったんだよ」
言いながらほんのりと頬が赤らんでいるように見えるのは気のせいじゃないはず。
自分が宮地の事を思い出しては切ない気持ちになっている間、宮地も自分の事を想っていてくれた。
「宮地さん、大好き。すっげぇ好き!」
ぎゅっと抱きついたら、包み込むように抱きしめ返してくれる。それが堪らなく嬉しくて、ますます身体を密着させた。
「馬鹿、重いっつーの! 退けよ」
言葉ではそう言いながらも触れてくる手はあくまで優しい。
「ねぇ、宮地さーん。もう一回オレの事好きって言って下さいよ」
「うぜぇ。あんましつこいと焼くぞ!」
「え〜、いいじゃないっすか。もう一回聞かせてくれても。ケチ〜」
「気が向いたらな。だから今はコレで我慢しとけ」
顎をくいと持ち上げられ唇に指が触れる。熱い視線に見つめられたらもう何も言えなくなってしまう。
「――あ……」
引き寄せられるように近づいてくる気配を感じ、高尾はそっと瞳を閉じた。
バケツをひっくり返したような雨はいつの間にか上がり、うっすらと後光が差し込む部屋の中、やっと思いの通じ合った二人は幸せを噛みしめながら、触れ合うだけの口付を交わした。