No title

「言えなかったんです。つか、オレ自身この気持ちを認めたくなかった……宮地さんはきっとオレの事なんとも思ってないだろうから、言ったら嫌われると思って」

宮地は少し怒ったように眉を顰めた。

「……なんとも思ってない奴を、ずっと側に置いとくほど俺は優しくねぇぞ」

「え? つか、それって……」

そんな言い方をしたら期待してしまう。言葉を額面どうりに受け取ったら、宮地は自分と同じ気持ちだったと言っているみたいだ。

「お前なぁ、そういう事は早く言えよ、たくっ……遅いんだよ埋めるぞ!」

「……すんません、オレ馬鹿なんで言ってる意味がよくわかんねぇっす」

ちゃんとはっきりした言葉で聞きたかった。自分の勘違いじゃないと確信が持てるように。

ぎゅっと宮地の手を握る。真っ直ぐに彼の瞳を見つめると、観念したのか宮地がチッと小さく舌打ちをした。

「俺も、お前が好きだ……。言わせんな焼くぞ!」

勢いよく頭を引き寄せられ、強引に胸元に押し付けられる。

頭をぐしゃぐしゃと掻き回され、息苦しくなって僅かに顔を上げたら耳まで真っ赤になった宮地の顔が映った。

「すっげ……顔、真っ赤」

「五月蠅い! それ以上言うと轢く! いや、刺す!」

「うへ〜っ、怖ぇ〜」

言いながらも顔が綻んでしまう。そろそろと遠慮がちに背中に腕を回したら力強い抱擁が返ってきた。

「オマエにどんだけ執着してたと思ってんだ。正直、緑間の側に居るのだってムカついて仕方がなかった。俺はお前の笑ってる顔が好きだったのに、いつの間にか笑わなくなって……無理させてるんだと思ったら、俺の側に置いておいちゃいけない気がして。だから、最初の約束どうり卒業で終わりだって手放したんだぞ。それなのに……」

「あれは、宮地さんと離れるのが辛くて……って、気付いてたんっすか!?」

「当たり前だ! アレで誤魔化してたつもりなら修業が足りねぇよ。つか、わかりにくいんだよオマエ。どうでもいい事は平気で言うくせに肝心なことは隠しやがって!」

至近距離でデコピンされ、額を押さえて苦笑する。

「すんません。でも、宮地さんだってわかりにくいっすよ! 俺の事が好きだなんて一度も言って貰ったことなかったし……」

「確信もないのに言えるか馬鹿!」

「……」

お互いに沈黙したあと、気が抜けたように笑みが零れた。

「ね、宮地さん。もう一回好きって言ってよ」

「……っはぁ? ざけんな! 言うわけねぇだろ」

「え〜、いいじゃん。言って下さいよ。聞きたいっす」

首に腕を回して甘えるような仕草をすると、そっぽを向いていた宮地が静かに目を伏せ困ったように舌打ちした。

「ねぇねぇ、聞きたい! もう一回だけ! 宮地さん〜」

「……うるせぇ! はいはい、好きだよ。これでいいだろ?」

「そんな感情の籠ってない言い方、オレは認めないです!」

「てめっ、調子乗りやがって……轢くぞ!」

言いながらベンチに押し倒された。至近距離で見つめながら頬を撫でられドキリと胸が高鳴る。

「言葉なんかより……態度で示した方がわかりやすいだろ?」

「……っん」

耳に息を吹きかけながら囁かれてぞくんと怪しい震えが背筋を駆けた。

ちゅんと軽いキスが降りてきて、ゆっくりと唇を塞がれる。

「宮地さん……すき……っ」

そっと首に腕を回して囁けば、甘い吐息と共に濃厚な口付が返ってくる。

言葉にはしてくれないけれど、それでも心は満ち足りた思いでいっぱいだった。


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