No title
「高尾、てめぇのシャツ小せぇよ。もっとデカいのないのか?」
「文句言わないで下さい! なんなら真ちゃんの借りますか」
「ハッ、気色悪い事言うな! 焼くぞ! それなら濡れてた方がましだ」
「でしょ? じゃぁオレので我慢してください。直ぐ乾きますって」
濡れた服を洗濯機に放り込んで戻ってきたら頭からタオルを被った宮地にいきなり文句を言われて高尾は困ったように頭を掻いた。
部室棟まで避難したものの流石にこのままと言うわけにも行かず、着替えをするために部室までやってきた。
今は、頭を乾かしながら洋服が乾くのを待っている状態だ。
こうやってTシャツとハーフパンツ姿の宮地を見ていると、1年前が思い出されるよう。
「オレだって、背伸びたんすよ」
「あ〜、俺も伸びてたな。まだまだ成長してるみたいだわ」
「マジすか。ズルい〜」
唇を尖らせて拗ねる高尾の濡れた髪を、宮地が指で掬いそっと触れる。
「彼女くらい出来たか?」
「いるわけないっしょ。……あ、でも真ちゃんには告られました」
「……ふぅん」
一瞬、また機嫌が悪くなる? と、不安になったが宮地はそれ以上何も言わなかった。
「そうか」とだけ呟いて視線を窓の外へと向ける。
「雨、止まねぇな」
「……でも、断りました」
「え?」
「真ちゃんからの告白、断っちゃいました」
「は? つか、なんでだよ。お前、緑間の事好きだったんじゃ……」
理解できないと言った風に目を丸くする。
「それは昔の話っす。確かに真ちゃんの事は好きかもしれないけど、それは相棒としてって意味だし……それに、オレは……」
言いながらドキドキと心臓が早鐘を打ち出した。
今なら言えるかもしれない。最後のあの日に伝えられなかった本当の気持ちを。
思いを返してもらえるとは思っていない。
言えなくて後悔するのはもう沢山だから。
笑い飛ばされてもいい。ただ、自分の気持ちを知ってもらいたい。
目を閉じれば、宮地と出会ってからの思い出が走馬灯のように蘇ってくる。最初は厳しいだけの先輩だと思っていたのに、知れば知るほど宮地の魅力に惹かれて行った。
怖いと思う時の方が多かったけれど、それだけじゃなくて髪や頬を撫でる指先はいつも優しくてそのギャップに何度ドキドキさせられたかわからない。
「……宮地さん、オレ……」
ふぅっと一つ深呼吸をして、真っ直ぐにグレーがかった瞳を見つめ思い切って言ってみる。
「オレ、宮地さんの事が好きです」
言いきってすっきりした。迷惑かもしれないけど、伝えられただけで満足だ。きっと、馬鹿じゃねぇの? って、笑い飛ばされて終わり……。
「好き……?」
ところが予想に反して宮地は呆然と同じ言葉を繰り返した。それ以上の反応は見受けられない。やっぱ引くよな。わかってた事だけれど、なんのリアクションもないのは流石に辛い。
一瞬、今のは冗談ですと、笑い飛ばしてしまいたい衝動に駆られた。でも、それではなんの意味もない。