No title
足早に部室棟の間を駆け抜けて、職員室へと急行する。広い校舎を走る間も一分一秒がもどかしい。
焦る気持ちを押さえつつ職員室に飛び込んだがそこに宮地の姿は無かった。たった今、彼は出て行ったと顧問の中谷から告げられて愕然とする。
だが、凹んでいる暇などない。
再び駆けだした高尾は、校舎を出ると急いで周囲を見渡した。
幸いにも宮地の姿は直ぐに見つかった。
彼はそこから50メートル程離れた場所から、体育館の方をジッと眺めていた。
少し癖のある蜂蜜色の髪、背の高いすらりとしたシルエット。間違いない!
彼を見た瞬間、ドクンドクンと締め付けられるように心臓が早鐘を打ち始める。
声を掛けようとした丁度その時、不意に頬に冷たい雫が滴り落ちてきた。視線を上げると、暗い空から糸のような雨が静かに降り注いでいた。
雨が降って来た事で宮地が足早に校門を出ようとするのがわかった。
せっかく姿が見えたのに、このままでは話も出来ないまままた会えなくなってしまう!
「――宮地さん!」
次第に濃くなってゆく雨を恨めしく思いながら、精一杯の大きな声で叫ぶ。宮地が振り向いて高尾の姿を認め、驚いた表情をして立ち止まる。
「よかった、……もう、帰ったかと思った……」
慌てて駆け寄り、ハァハァと荒い息をつく。噎せ返るような雨の匂いに詰まりながら濡れて張り付いた前髪をかきあげて、懐かしいその姿を見上げた。
「何やってんだよ、オマエ」
怪訝そうに眉が寄り、信じられないものでもみるような瞳が高尾を捕える。
「宮地さんが、挨拶もなしに帰るって聞いたからオレ……」
「それで追いかけてきたのか? 相変わらず馬鹿だなオマエ。濡れて風邪でもひいたらどうすんだ」
「こんくらいで風邪ひくほどヤワじゃないっすよ。つか、雨宿りしましょう、流石にこれはひでぇ」
雨足はさらに強くなり、宮地も高尾も全身びしょ濡れになっている。
土砂降りの中では会話を交わすことは困難だ。
宮地は何か用事があったようだが、どのみちこの雨では暫く動けそうもない。
幸い、部室棟が直ぐ近くにあったので二人は急いで建物の中に避難することにした。