No title
「ちょ、真ちゃん……苦しいって」
慌てて手を緩めてくれたことに少しほっとして、高尾は緑間と距離を取った。
「ごめんな、真ちゃん……気持ちは嬉しいけどオレ、やっぱ宮地さんが好きなんだ。だから、真ちゃんの気持ちには応えてやれない」
宮地の事がなければ、二つ返事でOKしていたに違いない。緑間といると楽しいし、まず飽きない。
一時期は、彼に淡い恋心を抱いていた時もあった。
何故、今なんだろう……。
コレが一年前だったら良かった。迷わず緑間の胸に飛び込んでしまえたのに。
でも今は――。
宮地の事を思うと身体が熱く火照ってしまう。彼の指が、瞳が、声が、匂いが記憶にこびりついて離れない。
時が立てば忘れられるだろうと思っていたけれど、日を追うごとにその思いは強くなって、高尾の心を縛り付ける。
会いたい、会いたい。会って、あの時言えなかった気持ちを彼に伝えたい。
例えそれで迷惑だとはっきり突き放されても、今ならきっと、受け止められる。
「……ほんと、ごめんな。真ちゃんの気持ちはすげー嬉しかったけどさ……オレ、真ちゃんの気持ちに胡坐かいて座るような真似はしたくないんだ。真ちゃんとは、ずっと相棒でいたいしさ……」
「……そうか……」
緑間が自分に好意を抱いてくれたことは素直に嬉しかった。だけど、やはりその気持ちに答えてやる事はできない。
正直な気持ちを打ち明けたら、緑間はふっと肩の力を抜いた。こうなる事を予想していたのか眼鏡をクイッと押し上げてくるりと踵を返し歩き出す。
「手間を取らせたな。戻るぞ高尾」
「ん、了解」
ずんずんと早足で前を行く彼は今一体どんな顔をしているのだろう?
回り込んで覗こうとしたが、突然彼が立ち止まったので思いきり彼の背中に鼻をぶつけてしまった。
「――てぇ。んだよ、急に止まんなって……」
鼻を押さえてその脇から前方を覗き込む。
そこに居たのは――。