No title
あれから数カ月が過ぎ、高尾達は二年になった。季節は巡り再びIHに向けて動き出した秀徳バスケ部は毎日地獄のようなメニューこなしている。
夢中になれるものがあって良かった。何もしないでいるとどうしても考えてしまうから。
人恋しい季節はもう終わってしまったと言うのに、ふとした瞬間に思い出してはやるせない気持ちにさせられる。
あれで良いと自分で無理やり納得させたつもりだったけれど、心の何処かでは出来る事ならもう一度やり直したいと願ってしまっている。
「――高尾、ちょっといいか」
定刻どおり部活が終わり、後片付けをしていると突然呼び止められた。
「なに、真ちゃん」
「話があるのだよ」
そう言って、高尾の腕を引き体育館を出て行こうとする。
「ちょい待ち! それ、今じゃなきゃダメなのかよ」
そう尋ねたら、緑間は複雑そうな表情を見せた。
ああ、そう言えば前にも似たようなことがあった気がする。あの時の相手はマネージャーで、しかもその後先輩に強姦されかけた。
嫌な思い出がデジャヴして、頬が引きつったが今自分に話があるのはその時の彼女ではない。
絶対の信頼を置いている相棒だ。
「……直ぐ、終わるんだろう?」
そう尋ねたら、緑間はこくりと頷いた。
それを確認し、小さく息を吐くと高尾は緑間の背をポンとたたいた。
「OK、行こっか。どうせこの後は自主練すんだし、モップ掛けはそん時でもいいよな」
緑間は、一瞬どこかホッとしたような表情を見せ、黙って先を歩く。
ふと空を見上げると、どんよりとした雲が広がり始めていた。