No title

厳しかった寒さも緩み小春日和となった今日、宮地達三年生は卒業式を迎えた。

体育館から流れてくる卒業式の歌を何処か遠くで聞きながら、高尾はベッドに寝転んだまま深い溜息を吐く。

卒業式なんて、来なければいいのに……。

何度そう思ったことか。

今日で宮地と会えなくなってしまう。そう思うと胸が苦しくて、居てもたっても居られない。

胸に花を付けた宮地の姿を見るのが怖くて逃げるように保健室に来てしまった。

結局、あの日から宮地に会えたのは数回のみ。

日に日に遠ざかってゆく存在に、寂しさは募る一方で口に出来ないもどかしさが胸を締め付ける。

もうそろそろ、卒業式は終わった頃だろうか?

やはり遠巻きにでもいいから凛々しい宮地も見てみたかった。そんな事を考えながらベッドを降りる。

何時までも保健室でサボっているわけにはいかない。

簡易式のカーテンを開け出口へと向かう。その時ふと、視界に丸椅子が映り込んだ。

半年前、この場所で宮地から「付き合っている事にしろ」と宣言された。

全てはココから始まったんだと思うと感慨深いものが込み上げてくる。

宮地はあの時一体どんな気持ちで言ったんだろう――?

立ち止まり、そんな事を考えているといきなりドアがガラリと開いた。

「――何やってんだ、オマエ」

「お、わっ、み、宮地……さん」

目の前には、ダークな笑顔を貼り付かせた宮地の姿。

「姿が見えないと思ったら、こんなトコで油売ってるとかいい度胸だな? あ? 轢くぞ」

「す、すみませんっ! うわっ、マジすんませんっ」

ゴゴゴゴと、地響きでも起きそうなほどのオーラを纏わりつかせ力いっぱい頬を抓られた。

「つか、なんでオレがココにいるってわかったんっすか?」

「お前が行きそうなところくらい、大体検討つくんだよ。バーカ」

「ハハッ、そーっすか……ってか、宮地さんのボタン……」

改めてその姿を見てみれば、酷い有様だった。学ランのボタンと言うボタンは全てちぎられて綺麗さっぱり無くなっている。

「あぁ、式が終わった途端に追剥ぎに遭った。最近の女は怖ぇな。校章も、学年章も名札も体操服も全部持っていきやがった」

「ぶはっ! 追剥ぎっすか……宮地さん意外とモテたんすね〜。ドルオタなのに」

「あ? なんか言ったか?」

最後の一言は余計だったようだ。ギロリと睨みつけられて身体が竦む。

せめてボタン一つくらい、予約しておくべきだったかもしれない。ふと、そんな事を思った。

でもそんな事、言えるわけが……。


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