No title
最初はそれでもいいと思っていた。自分がのめり込みさえしなければ、宮地が居なくなっても平気だろうと。
だが、気付かないうちに彼の存在が自分の中で大きくなってしまっていた。
本気になってはいけない。二人の関係はあくまでも高尾の身を守るためのカモフラージュなのだから――。
何度も何度も自分にそう言い聞かせるたびに胸がツキンと痛くなる。
この気持ちの根っこを探してみたかったけれど、知ってはいけないような気がした。
本当の自分の気持ちを知ってしまうのは、正直怖い。
知らなくて済むのなら、出来れば宮地が卒業するまで考えないようにしよう。
その方が、自分の為にも宮地の為にもいい筈だ。
沈みそうになる気分を変えようと、何とはなしに手元の携帯を開けたり閉めたりしてみる。
その時ふと、手の中に振動が走り初期設定のままになっていた着信音が部屋に鳴り響いた。
相手の名前を確認し、慌てて通話ボタンを押した。ドキドキしながら耳を押し当てると勢い込んで電話に出る。
「も、もしもしっ!?」
『……随分出るのが早いな』
「ちょうど手持ちぶさただったんで携帯弄ってたんっすよ」
『ふぅん、ヒマな奴はいいな』
小馬鹿にしたような声でも、聴きたいと思っていた時にかかってきたと言う事実が素直に嬉しい。
「そういう宮地さんは電話なんてしてて大丈夫なんっすか?」
『バーカ。俺を誰だと思ってんだよ、んなもん余裕だって』
「そう言ってて落ちたら、めいっぱい笑ってやりますから」
『てめっ! 受験勉強真っ只中の先輩様に向かって縁起でもねぇこと言うんじゃねぇよ、焼くぞ?』
「うへ〜、相変わらず怖いっすね、宮地さん」
そう言いながらも頬が緩んでいくのを止められない。
暫くは、宮地達のいない新しいチームの話や、普段の事など他愛もない事を話していたがある時ふと宮地が口を閉ざした。
奇妙な沈黙に高尾は首を傾げる。
『……高尾、オマエ、緑間とは上手くいってんのか?』
「ふへっ!? 真ちゃん? どーしたんすか、宮地さん」
突然、彼の口から珍しい名前が飛び出し高尾は戸惑った。
緑間の話をすれば必ず宮地は不機嫌になるのがわかっているので、敢えて話題には出さなかったのに。