No title
「――今日で俺たちは引退する。後はお前たちがしっかりと志を受け継いで頑張ってほしい」
長いようで短かったWCも終わり、宮地たち三年生は無事引退の時期を迎えた。
絶対に泣かないと決めていたので、彼らの前で涙することは無かったがネームプレートの消えたロッカーや、私物がなくなって整理された部室を見ていると何処となく寂しいような気分になる。
二月になると、三年生は自宅学習期間へ入ってしまい必然的に宮地と会う回数も減って顔を見ない日の方が多くなった。
――宮地は今、何をしているのだろう?
薄暗い部屋の中、ベッドに横たわり考える。
(受験生なんだから、勉強してるに決まってんじゃん)
鳴らない携帯のディスプレイを見つめ、高尾は盛大なため息と共に机に突っ伏した。
用が無くてもかけてきていいと言われていたけれど、結局自分からは一度も電話したことはなかった。
学校に行けば、何だかんだで直ぐに会えたし用があれば向こうからかけてくるから自分で連絡する必要性を感じていなかったのだ。
受験シーズンなんて、誰だって忙しいに決まっている。真剣に勉強しているであろう宮地の邪魔をしてはいけない。そう思うと通話ボタンを押すのをどうしても躊躇ってしまう。
コレが本当の恋人同士なら、用事がなくても電話したのかもしれないが、二人の関係は云わば仮初めのもの。
学校でこそ一緒にいることが多かったが、プライベートで会ったのは遊園地に行ったあの一度だけ。
彼の自宅も知らなければ、プライベートな事は何一つ教えて貰っていない。
自分の誕生日や、クリスマスなど一通りのイベント事だって高尾がプレゼントを強請って仕方なくと言った感じで、甘いムードとは程遠いあっさりした物だった。
それが、二人の関係を物語っているような気がして自嘲的な笑いが浮かぶ。
宮地の事を考えたとき、決まって胸を締め付けられるような感覚に囚われた。
卒業というタイムリミットが近づくにつれて、その痛みは日々大きくなってゆく。
会えなくなって気が付いたのは、自分がいかに宮地に依存していたのかと言う事。
宮地に抱かれている時に感じる充足感は、時に高尾に勘違いを与えた。愛されているような気になってくるのだ。でも実際はそうではなく、宮地の気が向いた時に呼び出され繋がるだけの関係。所謂セックスフレンド。
期間限定の恋人宣言は、そこにもっともらしい理由を付けたに過ぎない。
実際、守ってくれていたのは事実だし、宮地の流した(らしい)噂によって嫌がらせを受ける回数が格段に減ったのも間違いではない。