No title
「――まだ帰らないのか? 先輩たちはもうとっくに上がったのだよ」
二人きりになった体育館で、居残り練習を続けていると本日の目標数分シュートを終えた緑間がそう尋ねてきた。
ちらりと時計を見れば、もう直ぐ7時を過ぎようとしている所だ。
「もうそんな時間かよ。真ちゃん先帰ってていいぜ。もう少しやってきたいし、片付けもしとくから」
確かにそろそろ切り上げてもいい頃だが、まだ何か物足りない。実力不足を実感している今、一分一秒でも多く練習がしたい。
「最近、随分頑張っているようだが、練習のし過ぎじゃないのか?」
「心配してくれてんの? 真ちゃんやっさし〜」
緑間に心配された事に驚いて、高尾は額からとめどなく流れる汗をシャツで拭った。季節も進み夜はだいぶ冷え込む時期になったというのに、ハァハァと息を切らして凄い量の汗をかいている。
「茶化すな。オレは真面目に――」
「大丈夫だって! まだまだ足りない気がすんだ。ウインターカップが近いってのに……もっと、もっと上手くならなきゃ……やっぱ、チームのみんなの足手まといにはなりたくねぇじゃん?」
笑って答えると、緑間は一瞬目を丸くして酷く無防備な表情をした。
「なんだよその顔。そんなに意外だったのか? オレだってさぁ、それなりに色々と考えてんだぜ?」
それに、宮地と約束した……。もっと、もっと上手くならないと……今のままじゃ全然ダメだ。
「だが、無理をしたって身体を壊したら元も子もないのだよ」
「わかってる。……自分の限界位知ってるって」
「お前は……何をムキになっている?」
「意味わかんねぇよ。真ちゃん何言ってんだ」
笑い飛ばしてやろうとしたら、緑間が眼鏡を押し上げ真っ直ぐに見つめてきた。
「いや、違うな……。焦っているというより何かを考えないように必死になっていると言った方が正しいか」
「……ッ」
鋭い緑間の言葉にぎくりとし、笑みの形を作りかけていた頬がひきつる。