No title
「悪い悪い。だって伊月がすげー可愛かったから我慢できなくなったんだよ」
「……っ、オレを可愛いとか言うのは日向だけだって」
笑いながら唇に触れる指先すら火のようだ。怒る気力も失せて短い息を吐き、心配になって手をそっと握ると、燃えるような身体が伊月を包み込んだ。
「ひ、日向……」
「このままでいてくれ」
「……」
病気のせいで人恋しくなっているのだろう。僅かに身構えてしまった自分に苦笑しつつ
大人しくしていると日向の指がゆっくりと伊月の髪を撫でた。
「伊月の髪、マジでさらさらしてんのな。わかってたけど……すげー落ち着く」
「何言ってんだよ……」
苦笑しながらされるがままジッとしていると、だんだん腕の重みが増して、やがて力を失って止まった。
完全に眠ってしまったのを確認して、腕の下からそっと身体を抜いた。
枕元に置きっ放しになっている日向の眼鏡が視界に映り、手に取って少し掛けてみた。
度がきつくて視界がぼやけて見える。
(日向ってこんなきついの掛けてたのか……)
そっとソレをサイドテーブルに置き、投げ出された携帯電話を充電器に繋いだ。
それから、床に散らばっているものを一か所にまとめ、申し訳ないと思いながらもキッチンへ行きアイスノンを取ってくると日向の頭の下に置いた。
日向は薬が効いているのか目覚める気配がない。
起きたら食べれるようにお粥を作り、リンゴも皮をむいて塩水につけておいた。
不器用なせいで形は少々いびつかもしれないが食べれない事は無いはずだ。