No title

「結構甘いぜ。特別にオレが剥いてやったんだから食え」

「なんすか、それ……」

苦笑しながら口に含んだ瞬間、口の中に広がる柑橘類特有の甘さに思わず顔が綻んでゆく。

「どうだ?」

「ん、美味しい……デス」

「そっか、そりゃよかった。これ、木村が持って来たんだよ。甘いから食ってみろって……流石八百屋の息子だよなぁ。マジで甘いんだコレが」

確かに、口に入れたミカンは甘かった。そう言えば、部屋に置いてあるみかんは大体ハズレがなかったような気がする。

みかんは剥かないと酸いか甘いかわからないと言うけれど、素人目にはわからない見分け方があるのかもしれない。

今度、木村にみかんの見分け方を聞いてみよう。

「炬燵に入りながら食うみかんってなんでこんなに美味いんだろうな?」

「なんでっすかね? 炬燵だからじゃないっすか。なんかこう、まったり出来るっつーか」

ほわほわと温かい炬燵は入るだけでほっこりと落ち着いた気分になる。

ほんわかとした空気に包まれて、知らない間に笑みが零れた。

「不思議だよな……ホットカーペットでも良さそうなもんなのに、炬燵のほうが落ち着くなんて」

「まぁ、確かに落ち着くっすけどオレ、もっと落ち着くもん知ってますよ」

「へぇ、なんだよ?」

炬燵でみかんを食べる以上に落ち着くものって一体なんだろう? 不思議に思いながら高尾を見つめるといきなり頬杖を突いていた腕を引っ張られた。

「!?」

あっけにとられている宮地の腕に頭を乗せると高尾は悪戯っぽく微笑んでみせた。

「宮地さん腕枕してもらうのが一番落ち着きます」

「……っ」

「うはっ、なんすかその顔! はとが豆鉄砲食らったような顔してますよ宮地さん」

からかうようにそう言われ、思わずふぃっと視線を逸らした。


(いきなりんな事いうのは、反則だっつーの!)

もしやさっきからかった仕返しなのか!? ふと、そんな事を思ったけれどどうやら違うらしい。

「どうしたんすか、俺何か変なこと言いました?」

「まったく……お前には適わないな」

じわりと苦笑して抱きしめると、そっと高尾が抱き返してきた。

包み込まれるような感覚は確かに不思議な安心感がある。

たまにはこういうまったりとした雰囲気を楽しむのもいいかもしれない。

しばらくそのままの体勢で話をしながら、穏やかに時間は過ぎていく。


「お兄ちゃん、お母さんがぜんざいあるけど食べるか……って……あら?」

数時間後、高尾の妹が部屋の扉を開けると、仲良く手を繋いだまま炬燵の中で眠っている二人の姿があった。

「………なんかお兄ちゃん幸せそう……ふふっ、いいもの見ちゃった」

面白いものを見てしまったと、微笑みながらそっと部屋を後にする妹。

まさか彼女に目撃されてしまったとは知る由もなく、二人は穏やかな表情で眠り続けるのだった。



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