No title
「口開けよ」
言われたとおりに唇を開くと、口の中を覗き込まれた。
指先が口の中へと差し込まれ軟膏を口腔内に塗りこまれる。
宮地の指が舌に当たって急にソコを意識してしまった。
宮地の顔が近すぎて、心臓がバクバクと早鐘を打ち出す。跳ねまわる鼓動が体中にうるさく響いて、宮地に聞こえてしまうんじゃないかと心配になった。
「……思ったより酷く無くてよかったな」
ホッとしたような声がして、近かった宮地の顔がゆっくりと離れていく。
別にキスを期待していたわけではないが、なんとなく名残惜しいような気持ちになる。
「んだよ、キスして欲しかったのか?」
「……ちがっ」
甘さの滴るような指先が唇を撫で、カッと身体が熱くなった。
そんなに物欲しそうな顔をしていたのかと思うと恥ずかしくて仕方がない。
「……あのバカと何を話したんだ? お前は馬鹿だが、何も考えずに喧嘩を売るような奴じゃないだろ」
「……何気に酷く無いっすか? つか、別に喧嘩売ったわけじゃねぇし。ただ、レギュラーから降りろって言われて、断ったらアイツがいきなり殴りかかってきただけで……」
先ほどの光景を思い出し、全身をぶるっと震わせた。もしあの場に宮地が来てくれなかったらと思うと、ぞっとする。
「なるほどね……」
宮地はふぅんと呟いて、高尾の傷をまじまじと見つめ何か考えるような顔をした。
「どうしたんすか?」
「お前、今から俺と付き合ってる事にしろ」
「………は?」
あまりにも唐突な言葉に、反応が数秒ほど遅れた。
付き合う? 誰が? 誰と?
「当分緑間に告るつもりもねぇんだろ? 特別に俺がお前の彼氏になってやる」
冗談でしょう? と笑い飛ばすには宮地の表情が真剣すぎて、顔が強張る。
意外な提案に頭がついていかない。