No title
部室棟の屋上で待つ。
たった一言の短いメール。それを目にした瞬間俺は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
あの人が、俺を待っている。そう思うと、嫌悪感で指先が強張る。
「高尾?」
どのくらい携帯とにらめっこをしていただろう。不意に声を掛けられて我に返った。
目の前で、真ちゃんがどうかしたのか? と、不思議そうに俺を見つめている。
「メール、誰からだ?」
「ん? ダチ。中学校時代の」
咄嗟に嘘を吐いて、携帯を尻のポケットに収めると、ひと呼吸置いてから笑い掛けた。
「なに、珍しいな。そんなに気になる?」
「べ、別に気になどならないのだよ!」
わざと顔を覗き込んでやれば、真ちゃんはツンとそっぽを向いて視線を外す。
「そーツンツンすんなって。本当は気になるくせに〜。実は真ちゃん俺のこと大好きっしょ?」
「どうしてオレがお前のメールなど気にしなければいけないのだよ! き、気色の悪いことを言うな!」
頬を僅かに染めて、何かを誤魔化すように眼鏡を押し上げる仕草が可笑しくて思わず笑いが込み上げて来る。
やっぱ真ちゃん見てると飽きねぇわ。真面目でツンデレで、女王様で……でも、すげぇかっこよくて。一緒にいると退屈しない。
今まで側に居なかったタイプだからだろうか? 一度気になりだしたら止まらなくなって気がついたら好きになってしまっていた。
そりゃもう、盲目的と言えるくらいに。
「さて、と。悪いけど真ちゃん、俺ちょっと監督に呼ばれてたの思い出したからちょっと行ってくるな! 飯は先に食ってていいから」
ずっと談笑していたかったけれど、そう言うわけにもいかなくて、適当に理由を付けて立ち上がる。
「一体なにをやらかしたのだよ」
「ん、ちょっとな〜」
訝しがる真ちゃんを適当にはぐらかして、教室を出た。
今から向かうのは職員室――ではなく、呼び出しのあった部室棟だ。
本当は行きたくない。だけど、行かないとあの人に俺の秘密をバラされてしまう。
部室棟へ近づくにつれて、足はどんどん鉛がついたように重くなってゆく。
ゆっくりとした足取りで屋上へと続く階段を上り、煤けた白い鉄の扉の前で足を止める。
「――はぁ」
冷たいノブに手をかけて、思わず深い溜息が洩れた