No title
「たくっ、お前は……片付けサボってのこのこ女に付いてくからそうなるんだよ!」
「……すんません」
素直に謝罪を口にすると宮地は短く息を吐いて、自分のジャージを脱いで高尾に着せた。
彼の体温で温まっていたそれからふわりと宮地の香りがして、無意識のうちに鼓動が跳ねた。
ちらりと見上げると宮地はまだ怖い顔をしている。だが、先ほどまでの視線だけで人を射殺せそうなほどの怒気は感じられない。
軋む体を気遣ってか、腰に腕を回して体を支えながら歩幅を合わせて歩いてくれる。
「あんま心配かけさすな。緑間もお前の事探してたぞ……相棒にくらいちゃんと言っていけよ、バカ」
「……っ、マジすんません」
そうだ、結局緑間にも迷惑をかけてしまった。すぐ済むだろうと思って何も言わずに出てきてしまったのだから、心配するのは当然だ。
「……でも、お前が無事でよかった」
くしゃっと髪を撫でられて、ハッとして顔を上げた。
その頬を温かい掌がそっと撫で、腫れた傷口を見て苦悶の表情を浮かべる。
「取り敢えず手当しねぇとな。保健室まだ開いてるだろ」
「あ、大丈夫っす。このくらい……」
「いいから、来い!」
厳しい口調で言われヒャッと身体が竦んだ。
有無を言わせず肩を引き寄せられ、保健室のある校舎へと連れて行かれる。
薄暗い部屋には誰もおらず、宮地は丸い椅子に高尾を座らせると、真っ先に冷蔵庫からアイスパックを持って戻ってくる。
「取り敢えずこれで腫れてる所冷やせ」
頬にアイスパックをあてると殴打されて熱を持った部分がずきんと痛んだ。
その間に宮地は、慣れた手つきで保健室を漁り必要な物品を揃えていく。
「なんか随分手馴れてるんすね。宮地さん。もしや保健室の常連っすか?」
「バカ言ってんじゃねぇよ。あんま調子に乗ってっと蹴るぞ。一年の時保健委員だったんだよ。薬品とかの置き場所はそん時覚えた」
「ぶは! 宮地さんが……保健委員……っくくくっ、似合わね〜っ」
「悪かったな! つかほら、じっとしてろ」
宮地はガーゼに消毒液を染み込ませ血の滲んだ部分を手際よく拭いていく。
さっきまで気付かなかったが、体の至る所に鬱血した痕が残っている。
消毒液の冷たさが、穢れた体を清めてくれるような気がしてホッとした。
何度かガーゼを取り替えて、最後に唇の端にそっと当てられる。
「いっ……」
何度も殴られたせいで一番ソコが沁みる。
僅かに引いてしまった顎を捕えて顔をやや上向きに固定された。キスするような体勢と距離に顔が熱くなった。