No title
ガンッ
突然、薄暗かった室内に光が差して、大きな音が響き渡った。
高尾の上に乗っていた男が驚いて飛び退る。
「……ずいぶん楽しそうな事してんじゃねぇか」
地を這うような低い声に、周囲の空気がピンと張りつめるのがわかった。
男は入ってきた人物を見て血相を変え、慌てて衣服を整えて顔を引きつらせる。
「み、宮地……なんでここに……」
「あ? 馬鹿なマネージャーが青い顔して突っ立ってたから、なんかあると思って聞き
出したに決まってんだろ」
ちらりと高尾の姿を見て、宮地の顔から張り付かせていた笑顔が消えた。
「てめぇ……マジで轢くぞ、いや殺す!」
「ひっ……宮地ちょっ、落ち着けって……」
仮面のように冷たい表情からは何の感情も読み取れない。だが、全身から立ち上る殺気が彼の怒りを雄弁に語っていた。
これはヤバい。絶対にヤバい。
今まで散々、轢くだの焼くだの恐ろしい言葉を言われて来たが、言葉の重みが全然違う。
宮地は男の髪を無造作に掴かんで今にも殴りつけようとしてる。
暴力の衝動を感じとって、後ろから宮地の背に縋って叫んだ。
「宮地さん、ストップ!!!! オレなら大丈夫だから!」
「……っ」
宮地はゆっくりと振り向くと、殴られて腫れかけた高尾の顔を見てわずかに表情を歪めた。
「こんなことで、暴力なんて振るったら今までの努力が全部パアっすよ? こんな奴の為に宮地さんが試合に出られなくなるなんて、オレ、絶対に嫌です。オレなら平気だから、……だから、もう止めて下さい!」
なんとかこの場を収めたくて言葉を紡ぐと、宮地は男を人形でも投げ捨てるように突き飛ばし苛立たしげに舌打ちをした。行き場を無くした拳を強く握りしめ、唇を強く噛む。
「……くそっ!!!」
ドカッという鈍い音が響き、壁にわずかだがヒビが入る。
息を吸うのも億劫になるほど重たい空気が居た堪れなくて、思わず息を
んだ。
「宮地さん、あの……」
「……いいから、早くを服着ろ」
言われて初めて、下半身丸出しの自分の状態に気付いた。
高尾がズボンを身に着けている間、宮地はずっと男を睨みつけていた。さっきまで偉そうにしていたのに、一言も発することが出来ずに怯える姿がなんとなく可笑しい。
まるで蛇に睨まれた蛙状態だ。
「たく、モタモタすんな高尾! 着替えぐらいさっさと済ませろ」
「あ、はいっすんません! もう大丈夫っす」
「よし。行くぞ」
宮地は一度、苛立たしげに男を睨みつけチッと舌打ちを一つすると、高尾の肩を引き寄せて部屋を出た。
オレンジ色に染まった夕焼けをまともに見てしまい目が痛む。