No title
「へっ、冗談じゃねぇ。つか、そんなになりたきゃ実力でなればいいじゃないっすか、センパイ」
レギュラーになりたかったら人の二倍も三倍も練習して監督に認められればいい。簡単なことだ。
自分だって必死に練習してここまで来た。実力不足で落とされるのならまだしも、こんな汚いやり方に屈するのだけは絶対に嫌だった。
「生意気なガキだな。口のきき方には気を付けろつったろうが!」
大柄な男の目が眇められ、ドスの効いた声が部屋に響く。普通ならここで怯えの一つくらいあっても良さそうだが、高尾は不思議と落ち着いていた。
自分が置かれている立場はけしていい状況とは言い難い。だが、怖さで言えばキレた宮地のほうが一〇〇倍、いや一〇〇〇倍は恐ろしいような気がする。
「……へへっ」
「何が可笑しい?」
「いや、安心したんっすよ。この程度で脅したつもりなら、いくらヤったって無駄ってもんです。あんたより、宮地さんの方が数倍怖えし」
「てめぇっ!」
バカにしたような物言いが気に障ったのか男にいきなり頬を拳で殴りつけられ、口の中に鉄臭い痛みが広がった。さらに腹の上に膝が落とされ、吐き気と共に苦いものが込み上げてくる。だが、のしかかられているせいで体を折ることも出来ない。苦しくて、目じりに涙が滲んだ。
「く……かはっ……」
「悪い悪い、つい殴っちまった。ほら、これ以上痛い目に遭いたくねぇだろ? さっさとレギュラーの座を降りろよ」
「ヤダ! 誰が降りるかってんだ! 実力がねぇからって狡い真似してんじゃねぇよ!」
口の中に溜まった血交じりの唾液をペッと吐き出して、負けじと睨みつける。男の顔がみるみるうちに怒りで真っ赤に染まっていく。
「なんだと、このっクソガキが!」
前髪を掴まれ、上下に揺さぶって何度も後頭部を床に叩きつけられた。痛みで視界が歪む。
「よほど無茶苦茶に犯されんのがお望みらしいな。だったら、ご希望通りにしてやるよ」
男は卑下た笑いを浮かべながら抵抗の少なくなった高尾のシャツを捲り上げ大きく肌蹴させた。首筋にきつく吸い付かれ高尾のからだがピクリと動いたが、暴力の余韻で頭が霞んでうまく体が動かせない。