No title

てっきり体育館裏で話をするものだとばかり思っていたのに、彼女は体育館を横切り現在はあまり使用される事のない旧校舎のほうへと進んでいく。

古い建物にはいくつかの扉が備え付けてあり現在は用具倉庫として使用されているが、一昔前はここに運動部の部室があったと噂される区画で、彼女が足を止めたのは、消えかけたネームプレートに「バスケ部」と記された一室だった。

こんなところで話とは一体なんなのだろう?

不思議に思いながらも促されてドアを開けると、湿った空気が頬を撫でた。中は薄暗くてよく見えない。

「よぉ、一年。よく来たな」

「!?」

薄暗い部屋の中には見覚えのない、けれど自分と同じ部から支給されたジャージを着た大柄な男が一人腕を組んで立っている。ニヤニヤする男を見て、嫌な予感がした時にはもう遅かった。

強引に腕を掴まれて部屋に引きずり込まれる。

「ちょっ! ……これはっ!?」

いきなり埃くさい床に押し倒されて動けないようにのしかかられた。

開いたドアの向こうに真っ青な顔をした彼女が見える。両手で口を覆い、ふるふると頭を左右に振っていた。

「ごめん……ごめんね、高尾君」

ドアが閉じられる瞬間、彼女の泣きそうな顔が見えた。走り去る足音が空虚に耳に響く。

信じられない……。

「はぁっ!? ふざけんな! どういうことだよっ!?」

何が起こっているのか理解出来ないながらも、押さえつけてくる男の湿った手が気持ち悪くて何とか逃れようともがいた。

「まぁそんなデカい声出すなよ。俺がここにお前を連れてくるよう仕向けたんだ」

「意味わかんねぇ。なんでこんな回りくどい事すんだよ。つか、お前誰だ!?」

同じジャージを着ているという事は恐らくバスケ部員なのだろうが、面識はない。

「フン、威勢がいいな一年坊主。先輩に対する言葉遣いがなってないんじゃねぇか?」

こんな状態で敬語もクソもあったもんじゃない! 至近距離で顔にかかる荒い鼻息が生々しくて気持ち悪い。

両手首を床に縫いとめられ、逃げられないように両足の間に大きな体が滑り込んでくる。

「お前が、俺の言うとおりにしてくれるってんならこのまま解放してやるよ。逆らったらどうなるかは……わかるよな?」

男は嘲笑うように高尾の姿をじっと見下ろしながら頬に触れた。

ニヤニヤと笑うその視線が気持ち悪くて虫唾が走る。今のこの状況が読めないほどバカではないつもりだ。どうせろくでもない事を要求してくるのだろうという事は容易に想像がついた。

「で? 要件はなんっすか?」

「……フン、生意気な面だ。まぁいい。単刀直入に言ってやる。お前、一軍レギュラーから降りろ」

「……」

やっぱそうきたか。薄々そんな話じゃないかとは思っていた。キセキの世代の一人である緑間ならともかく、ついこの間まで中坊だった自分がレギュラー入りしてよく思わない輩がいるのは知っていたし、いつかはこうなる日が来るんじゃないかと予測もしていた。

実際小さないやがらせなら日常茶飯事なので対して気にも止めていなかったが、直接こうして言われると腹が立ってくる。


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