No title

「高尾君。ちょっといい?」

定刻通り部活が終わり、後片付けをしていると突然声を掛けられた。

インターハイが終わってからバスケ部のマネージャーになった娘だ。長い髪を高い位置で結び、毎日部員たちのサポートをしてくれている。

同じ一年だが今まであまり話したことはなかった。派手な感じのしないおとなしい娘だ。

そんな子が一体何の用だろう?

「あ〜、それって今じゃなきゃダメ? 早く片付けないと宮地さんマジ怖ぇーんだけど」

女子には優しいと噂の宮地だが、部活中は半端なく怖い。

高尾に対しての扱いは特に酷く、少しでも立ち止まろうものなら速攻で怒号が飛んでくる。

今も背後に厳しい視線を感じているので出来ることなら全てが終わってからにしてもらいたいのだが……。

「えっと、出来れば今がいいんだけど……」

そう言って彼女は視線を泳がせた。そわそわと落ち着かず、何かに怯えるような仕草に違和感を感じて足を止める。

何か真剣な悩みでもあるのだろうか? 

彼女はそれっきり口を閉ざしてしまったが、その顔色が青白く見えて思わず息をのんだ。

取り敢えず、告白等の類ではない事は確かだ。

「じゃぁ、少しだけ。すぐ済むんだろ?」

「……」

彼女は答えなかった。その間に疑問を感じたが、周囲の目を盗んでこっそりと体育館を抜け出した。



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