No title
「……っ、宮地さん、ほらっ、景色! せっかくだし景色を楽しみましょうよ? ね?」
「見られそうになって興奮するくせに今更なにイイコぶってんだよ。キスくらいで動揺すんなって」
「ちがっ、別に俺はそんな趣味ねぇしっ……つか、宮地さんがキスだけで終わるわけないだろ」
ムキになって反論したら腹黒い笑顔が返ってきた。
「バーカ。オレだって時と場所位考えるっつーの!」
お前だってキスすんの嫌いじゃないだろう?
そう聞かれたら答えられない。
言いよどむと、目が合った宮地がしたり顔で頬を寄せてくる。すかさず後頭部に手を添えられ唇を奪われてしまった。
「……ッ」
薄く唇を開くとそれは強引に割り込んできて口腔内を掻き乱す。
歯列を割られ、舌が絡め取られると、体の芯が震えて何とも言えない熱いものが込み上げてくる。
「ん……っ、む……ッ」
しっとりと唇を吸われて全身から力が抜けていく。あまりの気持ちよさに膝ががくがくして縋りついていないと立っていられない。
深く差し入れられた舌が、ぐるりと口内を舐めた。その感触の心地よさに無意識にその舌を追いかけてしまう。
「あ……ふ」
唇が離れた瞬間、呼吸を忘れていた事に気付いた高尾は大きく息を吐いた。
「……っ、ずるいっすよ宮地さん」
「オレは嘘は言ってないだろ」
「でも、いきなりこんな……」
扇情的なキスされたら――。
「感じたのか?」
「ばっ、ちがっ……」
キスの余韻で潤んでしまった瞳を覗き込みながら尋ねられて、体温が一気に上がった。
「さて……とオレはもう少しここに居てもいいけどどうする? それとも――」
近くのホテルに行くか?
口元に笑みを浮かべたまま、ねっとりとした声が耳元でそう囁く。
まるで最初から答えはわかっているとでも言うような顔つきに高尾は小さなため息を漏らした。
「そんなの、決まってるじゃないっすか」
「言わなきゃわかんねぇよ」
「……ホテル。連れてってくるれんでしょう?」
肩の力を抜いて、見上げると宮地は満足げに笑った。
そして、ゆっくりと闇に沈んでいく太陽をバックに二人はもう一度唇を重ね合った。