No title
「くそ……やっぱ可愛いな」
「……」
結構ドン引きな高尾とは対照的に、握手を終えた宮地はほっこりと癒されタイムに突入していた。
「俺はもうこの左手はしばらく洗わないぞ!」
「いや、汚いんで洗った方がいいと思います」
宮地は、ああいう清純な娘がタイプだったのか。確かに実際に目の前で見て可愛いとは思ったけどそれだけだ。
自分はやはり興味がもてない……。
「……宮地さんに彼女が出来ない理由。なんとなくわかった気がする」
「なんか言ったか?」
「いえ。何も――」
引き攣った笑顔で凄まれて、ひゃっと身体が竦んだ。
笑いながらキレんのは正直怖いからやめてほしい。
そうこうしているうちに派手な音楽が鳴り響き、舞台袖から先ほど握手したばかりの可愛らしい衣装に身を包んだメンバーが現れると会場は異様な空気に包まれていく。
ちょっとこのテンションにはついていけない。
確かに可愛いなとは思うし、彼女たちが出す曲を耳にしたことくらいはある。だが所詮その程度だ。
寧ろ、自分の目の前で彼女たちと殆ど同じ動きをしている宮地を見ている方がずっと面白い。
「宮地さん、なんで振付完璧に覚えてるんっすか……ぷくくっ」
あれだけ遅くまで部活残ってやってて、さらに成績も常にトップクラス。それなのに、この曲の踊りをマスターする時間が何処にあるんだろう?
と、言うか家で一人で踊っているのか? 宮地が?
「ぶふぉっ! やべぇ、超ウケる……!」
想像すると可笑しくて仕方がない。
「は〜笑った笑った。俺、窒息して死ぬかと思った」
「笑い過ぎなんだよてめぇは!」
「だって、宮地さんがノリノリで踊……ッ、プクククッ……」
「何時まで笑ってんだ蹴るぞ!」
ドカッと尻に蹴りを食らわされよろりとよろめいた。
「暴力反対〜!」
「うるせぇ! ……にしても腹減ったな。そろそろ昼飯にすっか」
気が付けば昼ご飯をまだ食べていなかった。宮地の踊る姿を見て喉も乾いている。
フードコート内はライブ帰りの人たちで混雑しているけれど、ここらで軽めに食事をしてもいいような気がする。幸い、席はタカの目で直ぐに見つける事が出来た。こういう時、視野が広いのは便利だと思う。
「じゃぁ俺、コーラとチーズバーガーで!」
「あ? ざけんな轢くぞ、てめぇが行け!」
「え〜、彼女に行かせるとか宮地さんサイテー」
「それとこれとは話は別だ馬鹿! つべこべ言わずに行けよ後輩!」
言葉とは裏腹に、宮地の財布を押し付けられ思わず表情が緩む。
「奢ってくれるんっすか? うっわ、宮地さんやっさしー♪」
「うっせーな。早く行け」
ぶっきらぼうな態度で背中を押され、苦笑しながら辺りを見回した。フードコート内にはカレーや唐揚げ、焼き鳥、ラーメンなど様々なものが売られているようだ。
それにしても、今日は宮地の意外な一面がたくさん知れた。
男同士で遊園地なんて楽しめるのかとちょっと不安だったけれども、案外楽しいものじゃないか。
そんな事を考えながら無難なファーストフードを選びそれをトレイに乗せて宮地の待つテーブルに向う。