No title
「ほらっ宮地さんお化け屋敷! あそこ入りましょうよ!」
「ミラーハウスなんてのも懐かしくていいんじゃないっすか?」
「あ! あっちあっち、新アトラクションだって!」
遊園地に来たのなんて何年振りだろう。いつもより優しい彼の態度がつい嬉しくて、大はしゃぎであちこち連れまわした。
「楽しいか?」
「はい! 超〜楽しいっす!」
優しい……と言うよりこれは生暖かい目? で高尾を見ている。
「……それならいい。じゃ、今まで散々お前に付き合ったんだから今度はオレの用事に付き合えよ」
「ぅへ? どっか行くんっすか?」
「まぁな。ちょっと見たいものがあるんだよ」
「見たいもの?」
宮地が見たいものっていったいなんだろう?
もしかして、同じ施設内にある水族館とか?
実は可愛いもの好きで、ペンギンとかアシカの赤ちゃんに癒されたいと思っているとか?
「ぶはっ! 似合わねぇ〜」
「お前今、なんか変な事想像してるだろ」
鋭く目が光り、慌ててぶるぶると首を振る。
「そうか……じゃぁ、そろそろ並ぶぞ」
「並ぶ?」
何処に?
「たった今言っただろ。あぁ、そうそう。お前にもコレ渡しといてやる。絶対に曲げるなよ」
「へ? これって……」
手に持たされたのは宮地イチ推しのアイドルの顔写真入りウチワ。もうこの時点で嫌な予感しかしない。
「宮地さん……まさかとは思うけど……」
いつもショーなどをやっている広場の前まで来ると、黒山の人だかりに出くわした。ついさっきまでは人もまばらだったのにたった数十分で物凄い行列ができている。
「今日はここで握手会とミニライブがあるんだよ!」
そう言いながら高尾の手を引き列に並ぶ宮地の顔はいつになく生き生きとしている。
まさかとは思うが、今日ココに誘ってくれたのもこのライブを見るため?
宮地さんがドルオタなのは知ってた……けど! だけど――!
「マジっすか……」
遊園地の屋内ホールに設置された煌びやかな舞台を目の当たりにして、高尾は頬を引きつらせた。