No title
「で、なんに乗るんだ?」
「ん〜、じゃぁまずは定番のジェットコースターいっときましょうよ」
「ジェットコースター? マジかよ」
入場門をくぐって直ぐの所に、丁度回転式のコースターが聳え立っている。
ソレを指さすと宮地の頬がわずかに引き攣るのを高尾は見逃さなかった。
「え? なに、宮地さんもしかしてビビってたり?」
「ざけんな。轢くぞてめぇ! んなもん怖くもなんともねぇよ!」
凄まれても今日の宮地は何処となく怖くない。
「ふぅん。じゃ、決まり☆」
「あ、お、おいっ」
戸惑う宮地の腕を引いて、コースターの最後尾に並ぶ。そのすぐ側を轟音と悲鳴が通り過ぎてゆく。
「……っ」
表情を強張らせグッと押し黙ってしまった宮地の姿が可笑しくて、でも笑ったらきっともう乗ってくれないだろうと思い必死に笑いを飲み込んだ。
そして――。
「うははははっ、くるし〜〜〜っ!」
「くそっ! てめっ! 何時まで笑ってんだよバカ尾が!!!!」
アトラクションを降りた後、待ち受けていたのはコースターが下降する際に撮影された写真の数々だった。
声こそ上げなかったけれど、モニターには歯を食いしばって目をギュッと瞑る宮地の姿がばっちりと映し出されていて、ツボに入った高尾の笑いが中々収まらない。
「腹いてぇ、宮地さんコレすっげー顔……ぷっ、くっ」
「……回転するヤツは嫌いなんだよ。馬鹿っそれ以上笑うと刺すぞ!」
「あ〜、刺すのは勘弁してください。痛いのヤダし」
「ほら、次行くぞ」
「ちょっと待って、宮地さん。この写真買って来ます」
「買うな! 轢くぞ」
「え〜、宮地さん可愛いのに……」
「……一発殴っていいか?」
「いてっ、もう殴ってるじゃん」
そんなやり取りが凄く楽しい。
部活ではとにかく厳しくて、口応えは許さないと言った感じの先輩だけど今日だけは違う。
それがくすぐったくもあり、嬉しくもある。
「じゃ、次はあの回転盤みたいなやつ行きましょう♪」
「てめっ、回転系は嫌いだつってんだろうが! わざとだろ!」
「ふへっ? まっさかぁ♪ ただ、ここのアトラクション全部制覇したいだけっすよ」
「全部? マジでか」
「オレは大マジです〜。せっかく来たんだから楽しまないと損。でしょ?」
高尾はさりげなく宮地の手を引いて嬉しそうにウインクする。
「かなわねぇな」
小さな苦笑を見せて独り言のように宮地が呟いた。
たとえ明日からまた何時もの宮地に戻ったとしても、今日だけは特別。それだけで胸の中がほっこりと温かくなって、幸せな気分になれた。