No title
太陽が眩しい。
昨日はなんだかんだと色々考えてしまって結局あまり眠れなかった。
たかがデート一つでこんなにドキドキするなんてこと初めてだ。
中学の時に初めて出来た彼女の時でさえもこんなに胸躍ることはなかったのにこの感情はいったいなんなのだろう?
今日は晴天。絶好のお出かけ日和だ。秋の風が頬を撫でてとても心地がいい。
高尾はうーんと伸びをして、時計を見た。
そわそわして落ち着かず、結局待ち合わせの時間より二〇分も早く着いてしまった。
「よぉ、早いな」
待つこと約一五分。向こうから歩いてくる宮地の姿が見えて暇つぶしに弄っていた携帯のディスプレイを閉じた。
カジュアルなハーフコートにざっくりとした編み目のマフラー。タイトなジーンズ。ラフな格好なのに背が高くてスタイルがいいから、雑誌のモデルのようにキマっている。
思わずポカンと口を開けたまま魅入っていると、宮地が可笑しそうに小さく笑った。
「なに間抜け面してんだよ」
「あ! おはようご……なんっすか、そのリュックは……」
ハッと我に返り挨拶をしようとして、まず一番に目に付いたのが宮地が背負っているリュック。
入りきらなかったのかチャックの隙間から何やら棒が数本飛び出している。
「あ? あ〜、まぁ色々な。コレの事は気にすんな」
気にするなと言われても気になる。棒の形状からして恐らくうちわか何かだろうとは思う。
今日ってそんなに暑くなる予報だったっけ?
首を傾げていると、行くぞと腕を掴まれた。
まぁいいや。今日はたっぷり時間あるんだし、そのうち中身が何かわかるだろうと思い直し慌てて宮地の後をついていく。
幸い週末だというのに電車内は空いていてホッとした。今日はラッキーデーかも。
ラッキーと言えば、今朝はおは朝見逃したな。面白いから話のネタに蟹座だけは毎日チェックしてたのに。今日の緑間のラッキーアイテムは一体なんだったのだろうか?
「……おい、今緑間の事考えてたろ」
「ふへっ!?」
低い声がしてぎょっとして顔を上げた。宮地が不機嫌そうに眉間に皺を寄せて睨んでいる。
「お前は俺の彼女なんだから、俺といる時は他の事考えんな」
「……っ」
きつい口調で言われたら、文句の言葉も出てこない。本当の恋人でもないのに理不尽な要求だ。じゃぁ宮地は自分の事だけを考えてくれているのか? と、思ったけれど怖くて聞けなかった。
「つか、カノジョって言い方どうにかならないっすか? オレ女じゃないからそう呼ばれんの抵抗あるし……」
取り敢えずソコだけはしっかりと注意しておきたくて口を開くと宮地は少し考えるようなそぶりを見せたのち、ニッと笑って言った。
「じゃぁ、恋人な」
トクン、と胸が高鳴った。
それはそれでなんだか照れくさい気がする。
「何赤くなってんだよ。バーカ」
おでこを小突きながらククッと宮地が小さく笑う。
「って〜。もー、デコピンすんのやめてくださいよ。赤くなったら超ハズいから」
「叩きやすいんだよお前のでこ。つーか、お前俺に注文付け過ぎ!」
「ひっでー」
頬を膨らませる高尾をからかいながら、宮地は面白そうに表情を緩める。
こんなに笑う宮地はもしかしたら初めて見るかもしれない。そう思うと、なんだか少し嬉しくなってくるから不思議だ。