No title
「ちょ、ごめん真ちゃん!」
慌てて教室を飛び出すと、すぐに宮地と目があった。ほんの一瞬だがその表情に愛おしそうな色が浮かんだ。ような気がする。
「気付くのはえ〜な。流石ホークアイよく見えてんじゃん」
頭をくしゃっと撫でられ複雑な気分になった。
「そりゃ、宮地さん目立ってるし……それより、どうしたんすか? こんなところまで」
周囲を見回してみるがどうやら木村の姿は無いようだ。
簡単な用事ならメールで済ませられるのに、わざわざ目立ってまで高尾の教室に来た理由はなんだろう?
まさか、顔が見たくなったとか? いや、それはないか……。
不思議に思っていると、宮地が声を顰めて告げた。
「……例のアイツな、やっぱ退部させることになったんだと。自分がレギュラーになりたいからって暴力行為は許せる問題じゃねぇし」
「……そうっすか」
先日の一件が脳裏を過り、なんとなくホッとした。
でも、不安がまだ去ったわけじゃない。お前のせいで辞めさせられたんだと逆恨みされなければいいけれど。
「あのバカはもうお前には手を出して来ないから安心しろよ。もしまたバカなことしやがったら今度は100パー轢いてやる! 原付で!」
「軽トラじゃないんっすね」
原付なんかで轢いたら本気でシャレにならない。
「当たり前だ。軽トラ運転したら無免許になるだろうがアホッ!」
「ハハッ」
そういう問題じゃないと思うのだが、宮地の目が据わっているので取り敢えずそれ以上のツッコミはしない事にした。
「……大丈夫だって。守ってやるって約束しただろう?」
安心させるように言って、頭をくしゃくしゃと撫でられる。
「宮地さん、オレの事ガキ扱いしてねぇっすか?」
ちょっとムッとして見上げたら、宮地がククッと喉を鳴らした。
「ちょうどいい位置にお前の頭があるんだよ」
「……すぐデカくなります」
「あと半年で? ま、その間にオレもまだ伸びるだろうけどな」
「それ以上伸びてどうするんすか」
ぶぅっと頬を膨らませば、宮地が面白そうにその頬を撫でた。くいっと顎を持ち上げられてどきりとなる。
「……」
「あ、あのっ……宮地、さん……?」
そのままの状態で数秒間見つめあって、恥ずかしさに耐えられなくなった高尾が戸惑いの声を上げると、宮地はハッとして手を離した。
「悪い。じゃぁ、取り敢えずそういうことだから」
言いたいことは言ったとばかりにくるりと踵を返し、宮地が一歩踏み出す。
なんだ、結局あの件の報告だけの為に来たのか。複雑な気分でその後ろ姿を眺めていると
「あぁ、そうだ」と、思い出したように宮地から声がかかり、躊躇うように高尾を振り返った。